用語解説 テイルコート

テイルコート(Tailcoat)は、男性用の夜の最上級礼装です。
燕尾服の呼称でお馴染みですね。
タキシード(ディナージャケット)と混同されがちですが、タキシードは略礼装です。
(タキシードは)アメリカから広まったようです。ヨーロッパの方はあまりお召しになりません。
日本人もほとんど燕尾服を着ることがないんじゃないかな?
ノーベル賞の授賞式中継で見られるぐらいになってしまった。
ドレスコート、イヴニングコートなどとも呼ばれるようです。


最も特徴的なのは裾のカットです。
前裾は腰の上で切られ、後裾だけが長い。その後裾は二つに割れています。
これは、馬上……鞍の上でもたつかないよう作られたのが起源だそうです。
元は乗馬服だったのですね。
現在でも正式な馬術競技ではテイルコートとトップハットの着用が規定となっています(オリンピックの馬術競技で見られますね)。
(後裾の割れは)晩餐会などの椅子でやはりもたつかないようにという目的もあるようです。
皺の寄った夜会服は見苦しいという意識のあらわれでしょうか。
また、テイルコートの前合わせは閉めらないように作られています。
体にぴったり沿う形で仕立てるため、動きやすさは皆無だったとか。

 

 

前裾のカット、長い後ろ裾がよくわかるファッション画。

 

 

 テイルコートに合わせるのは、拙作の文中で表記した通りです。
白のウェストコート、白いボウタイ、ウィングカラーのシャツ、白手袋。
帽子は黒のトップハット、懐中時計(現在でも腕時計は品がないと見なされるらしい)。
テイルコートは原則として黒。襟はピークドラペルに絹を張る。
白以外のタイは邪道だそう。19世紀半ばぐらいまではクラヴァットを使うことが多かったみたいね。
19世紀後半になってボウタイが登場しても、クラヴァットをクラシカルなスタイルとして好む紳士もいたようです(一部の、おしゃれに敏感な方でしょうか)。


テイルコートの実用性は低いです。
男性の体を美しくエレガントに魅せるためだけに作られた服と思われます。
フロックコートにしろ、ステッキにしろ、この当時の紳士が身につける衣服や装飾品はほぼそういった目的です。
労働の必要がなかったことを明確に匂わせていて興味深いです。


拙作の第五十二夜でアルフレッドが真新しいテイルコートを試着していますが、正式に纏うのはもう少し後になります(第四章)。
そのときにはジュリアンも夜会服姿を初公開しますので、もう少々お待ちくださいねっ。