目が覚めたら、首輪がついてあった件について ※カットした山本さんの活躍話 後編

そして、パーティーイベントが始まった。

 

Domの参加者とSubの参加者がイベント会場に一斉に集まり、まずは割り振られた番号同士で対面するように席に着く。

 

星斗に割り当てられた番号は【S-02】なので、目の前の席には、当然、Dom性の参加者【D-02】が座った。

 

【D-02】は見た目、20代後半辺りと思わせる男性で、額を隠すように垂らした前髪が上手く整っているのか常に気になるのか、手で触ったり、顔を左右に大きく振ってみたりと、前髪の位置を常に気にしているような人物だった。

 

星斗は正直タイプじゃないな、と、思った。
というか、男のDomをパートナーにするなら、男として尊敬できる人が良い。

そんなことを思うと、星斗の脳裏に眞門の顔が浮かんでしまう。

 

しかし、そんな眞門の顔を一生懸命振り払うと、再び思い直す。

 

もう何でも良い。
俺の居場所を見つけられるなら、それで良い。


星斗は、いつも、そんな投げやりの態度で、パーティーイベントの席についていた。

 

まずは、スタッフからの挨拶が始まり、イベントに関しての注意事項(例えば、個人情報はどんな理由があろうと絶対に伝えてはいけない、や、イベント終了後に直接会う行為はなるべく避けて欲しい、など)の説明が一通り終えると、いよいよ出会いを楽しむ時間がスタートとなった。

 

アピールタイムを含む対話時間の開始を知らせるベルの音が鳴り響くと、まずは、プロフィールやアピールポイントなどを記入した自己紹介のような用紙をお互いに渡し合う。

 

星斗は「よろしくお願いします」と、ボソボソとした声で、前髪をやたら気にする【D-02】に自分のプロフィールを書いた紙を渡した。

 

「こちらこそお願いします。これ、私のです・・・」


そう言って、【D-02】も同じく自分のプロフィールを星斗に手渡す。

 

【D-02】は星斗から渡されたプロフィール用紙を見て、すぐに目が点になった。

 

「?」

 

星斗は年齢、身長、血液型以外、何も記入していないからだ。

 

「・・・あの、これ・・・」

 

【D-02】はそう言って、プロフィール用紙から目線を星斗に移すとまたも唖然とした。

 

星斗は、【D-02】のプロフィール用紙を手にすることなく、テーブルに置きっぱなしにしているからだ。

 

そうして、話す気もないのか、ただぼんやりとしている。

 

【D-02】がその態度に戸惑って、「あの・・・」と、声を掛けると、星斗が突如目線を合わせてきた。

 

そして、何を思ったのか、ウルウルとした瞳で甘えるように上目遣いで見つめる。

 

「俺、無職の依存系のSubなんです」

 

「はあ・・・」

 

「俺の飼い主になってくれますか?」

 

「!」

 

【D-02】はズドーン!と、胸に一発、何か撃ち込まれた気がした。

 

どうやら、星斗のSub性全開の誘惑にDom性が負けてしまったようだ。

 

「・・・じゃあ」

 

【D-02】は、会場スタッフの目を盗むようにして、ペンを取り出すと、星斗がテーブルに放置してある、己のプロフィール用紙を取って、そこに、自分の連絡先を書いて、星斗に渡す。

 

星斗は素直に受け取ると、「ありがとうございます、ご主人様」と、また瞳をウルウルさせてお礼を言った。

 

「!!!」

 

今度は、【D-02】の胸でバコーンっ!と、いう破裂音がした。

星斗のSub性のフェロモンに完全に心を撃ち抜かれてしまったようだ。

 

「・・・あの、良かったら、帰りに近くの公園で待っているから・・・」

 

【D-02】が誘いの言葉をそこまで言いかけると、星斗の背後から、会場のスタッフとして参加していた山本がすぐに駆けつけてきた。

 

「すみません、【S-02】さん、今日は体調不良のため、只今を持って、退出とさせて頂きます」と、【D-02】に営業スマイル全開でお断りを入れる。

 

そして、「ほら、行きますよ!」と、言って、嫌がる星斗の腕を強引に掴んで、会場から連れ出していった。

 

山本は星斗を連れて、Subの参加者用の控室にやってくると、星斗の腕をようやく解放して、控室のドアに鍵をかけた。

 

そして、目の前にあった長机に向かって、ドーンっ!と、自身の怒りをぶつける様に両手で叩く。

 

「お前、いい加減にしろよっ!」と、いきなり星斗を怒鳴りつける山本。

 

相当のストレスが溜まっていたのだろう。

 

「毎回、毎回、あんな汚い手を使いやがって! あのイべントに参加していらっしゃるDomのみなさんはパートナーを真面目に探しにここに来てるんだよ! なのに、お前と来たら・・・ここはフラれたお前の自信を取り戻す為の場所じゃねえだ!」

と、更に叱りつける。

 

「こっちが下手に出て、大人しく見守ってやってるのをいいことに、ルール違反しまくりやがって! 今日こそはもう絶対許せねぇ!」

 

山本はかなり腹に据えかねてるようだ。

 

「だって、山本さんが悪いんじゃないですか! 俺が折角もらった連絡先を最後に全部取り上げるから! だから、俺は仕方なく毎回参加するしか・・・っ!」

 

「そうか、分かった」

 

山本はそう言うと、大量の名刺やメモ、プロフィール用紙をクリップで留めて一纏めにした物を、ズボンのポケットから取り出して、目の前にあった机の上に叩きつけた。

 

「これ持って、今すぐ帰れ。お前が飼い主になってくれって誘惑したら、ほいほい渡してきた奴らの連絡先だ。紛失があるといけないから、毎度数えてきちんと管理してたんだよ。全部で70枚だ。良かったな、大層オモテになるようで。あ、悪い、さっきの人を合わせたら、71枚か。好きにこの中から選んで飼い主になってもらえ。で、二度とここには来るな。良かったな、良い飼い主が見つかりそうで。おめでとう」

 

山本はかなりの嫌味を込めた口調でそう告げると、背を向けて、控室から出て行こうとした。

 

すると、シクシクと泣き出す星斗の泣き声が聞こえてくる。

 

なんなんだ、こいつは・・・っ!と、山本は呆れた顔を浮かべると、ハァーと重いため息をついて、振り返った。

 

「なんで泣いてんだよ? お前がこうしたいって言ったんだろう?」

 

「だって、山本さんにそんなこと言われたら、本当にもうどうして良いか分かんないだもん・・・今の俺にちゃんとかまってくれるの、山本さんだけしかいなんだもん・・・」

 

星斗はいつも自分を見守ってくれていた山本に、本当は心の中で感謝して、信頼を寄せていたようだ。

 

山本は更に呆れた顔を浮かべると、説教を始めた。

 

「お前な、この71人、全員の顔を覚えているのか? この71人全員のアピールポイントは? この中から、お前、飼い主になってもらいって思った奴はいたのか?」

 

星斗は首を横に振った。

 

「なんでだ?」

 

「・・・あの人の声がずっと聞こえてくるから・・・だから、選べない・・・」

 

「あの人?」

 

「最後にあの人に聞かれたんです。『星斗は誰に支えられたいんだって?』。俺達、DomとSubは支え合いながら生きていかなければならない。だから、俺は星斗に支えられながら生きたいって。そう言ってくれたのに、俺は何も答えてあげなかった。
だから、俺は捨てられたんだと思う・・・」

 

星斗はそう言うと、今度は大粒の涙を流し始めた。

 

山本は勘弁してくれ・・・と、心の中でボヤキながらも、「俺は分かってたよ、初めから」と、口にした。

 

「お前、全然、必死さなかったもん。探す気なかったもん」と、続けた。

 

そして、一向に泣き止まない星斗が可哀想に思えたのか、

 

「その答えを伝えるのはもう遅いのか?」

 

と、助言してやった。

 

「パーティーイベントに参加してみて、色んなDomの方と触れ合って、それでその答えがやっと出せたんだろう?」

 

星斗は頷く。

 

「ご主人様はその人が良いって」

 

星斗はまた頷く。

 

「だったら、それを伝えに行ってこい」

 

「・・・・・」

 

「その人をさっきみたいにどんな手を使ってでも誘惑して、ご主人様になってもらえ。それがSubに与えられた特権だ」

 

「・・・もし、ダメだった時は?」

 

「その時は俺が、その人以上に素晴らしい飼い主を見つけてやる」

 

「山本さん」

 

「ん?」

 

「だったら、俺の友達になって」

 

「えっ・・・」

 

山本はまさかのお願いに固まった。

 

願わくば、友達にしたくないタイプなんだけど・・・。

 

「友達になってくれたら、伝えに行ってくる」

 

「ええー、なんで、そんな取り引き条件を急に持ち出してくるんだよ・・・」

 

山本は戸惑った。

 

「だって、俺、友達いないんだもん。山本さんみたいな友達欲しいんだもん・・・」

 

星斗は瞳をウルウルさせて、山本を見つめた。

 

「お前な、Sub相手にも、その手が通用すると思うなよ・・・」と、Subには断じて通用しない手段を使う星斗に呆れると共に、なぜか放っておけない気持ちにもさせられた山本は渋々承諾した。

 

 

※  本編の構成上、本編と整合性が取れていないところがありますが、そこはどうかお許しください。

 

本当に読んで頂いてありがとうございました!

私も楽しい時間が過ごせました!!