「薄陽」あとがき兼対処方法(ご参考までに)

 42歳↑コンテスト、応募させていただきました。
 BL界においては絶倫系の大人男子が蔓延していると思いますが、リアルの世界で言うと、パワーダウンが始まる年齢でもあります。「全然関係ないよ」という男性もいるかと思いますが、少なからず悩みを抱えている人は多く存在するのでしょう。新聞に毎日のように掲載されている広告「いつまでも若く!」「漲るパワー!」「若さを取り戻す!」そんなコピーとともに、タンクトップの女子や、ガッツポーズのおじさんの写真が掲載された精力剤の広告。それなりに需要があると思われます。

 

 今回選んだテーマは「中折れ」
 勃起はするのに持続力がなくなり自覚症状もないまま突然力を失うという症状です。勃起もするしオナニーではフィニッシュができる。だから勃起不全ではないという逃げ場はあるのですが、立派に勃起不全の仲間です。
 EDのことを「不能」と言いますが、これはかなり重い言葉ですよね。能無し、能力なし、かなり人格否定的な表現です。文字通り、この症例になった男性はセックスだけではなく男としてのプライドや自信が崩壊。精神的にまいりすぎてうつ病になる人もいる。勃起しないということの余波はとても大きいのです。
「薄陽」とは雲の切れ目から弱い光が射しこむ状態のことを言います。低迷した景気や武力抗争が改善に向かい始めた、そんなときに「薄日がさす」という表現をします。今回は中折れした主人公が自己完結して恋人と仕事から逃げるが最終的には灯りが見える……そんなストーリーになっています。

 絶倫エロオヤジもいいですが、ちょっと枯れ始めた男性の姿もたまにはいいだろうと「BLはファンタジー」という概念の中にリアルをぶち込んだのが「薄陽」です。

 

 実はその昔、当時付き合っていた方が「中折れ」になりました。その時の絶望っぷりには掛ける言葉がなく、どうしたものかと途方にくれました。
 「情けない」「男失格だ」「最低だ」「最悪だ」出てくる言葉はネガティブの宝庫。結論から言うと女性には理解できない心情です。何を言っても慰めにもならず、言葉は空回りするだけ。


 私のしたことは質問。

 

「自分ではイケるの?」
「……」
「恥ずかしがっている場合じゃないよ。一人の問題じゃないからね。二人で解決しようよ」
「……うん。自分では大丈夫」

「じゃあ、やってみて」

 

 あの時の顔は忘れられません。目玉が落っこちるかと思うくらい見開かれたので笑いそうになった。

 

「そんな変態みたいなのは無理だ」
「緊急事態なんだから。ね?」

 

 映画監督のように椅子に座って「よーいスタート!」その後真剣に見つめる。そんなことはしません。最初は私が触りキスやらなにやらかにやらを施し、さりげなく握らせる。それからは流れで頑張ってもらい無事射精に至りました。

 

「よかったね。大丈夫だよ」
「……変態かよ」
「大丈夫だってこと私が確認できたもの。それ大事」

 

 ステップ1はこれ。ちゃんと勃起するしイケる。これを積み重ねる。「大丈夫かもしれない」を積み重ねる。
 ステップ2はオーラル。これも問題なし。別バージョンの「大丈夫かもしれない」を積み重ねる。
 ステップ3はサプリメント。亜鉛を飲ませることにしました。通販で売っている精力剤やススキノにある「赤まむし」ではなくコンビニで売っている商品。

 効く確証はないけれど「絶対効くから」と私は言いました。医者ではないただの素人ですから「絶対」も軽々しく言えます。このサプリ作戦はプラシーボ効果を期待しました。偽薬であっても適切な薬だと患者が思い込み、体調に変化が現れるというもの。
 勃起不全は肉体的な衰えもありますが、心理的な要因も大きいと聞いたからです。「まだダメだったらどうしよう」「次は絶対ちゃんとしてやる」「ずっとこのままだったら?」そういう心理的な積み重ねでますます悪化するらしい。


 ステップ1~3を実践しつつ、ノリ気な時は挿入も試みる。多少大げさに硬度や大きさを褒めたり言葉にする。途中ダメになっても「前より硬くなった気がするな」なんて言うと「亜鉛が効いているのかな」と返事が返ってくる。「最低だ」「ダメだ」というネガティブな言葉がでなくなった。
 これをしばらく実践していたら、中折れ症状がでないまま最後まで到達するようになり、めでたく復調。一度「大丈夫だった!」を得るとどんどん自信を取り戻し、メンタルも穏やかに。不安が減っていくにつれて、欠かさず飲んでいた亜鉛を飲み忘れるようになった。
 そして通常運転の平穏な状態になると買うのを止めた。「あの時はどうなるかと思ったよ」と笑い話として振り返ることができるまでになり、この問題は解決。

 

 この方法が正しかったかどうかはわかりませんが、復調したひとつの例ですということで書いたのですが、これってBLフィールドにはふさわしくないなと……今更ですが(笑)

 「薄陽」はその経験を思い出しながら書きました。でも1万文字しか使えないので、ステップ1~3を実践しているシーンを盛り込んだら絶対にオーバーです。それで年下くんの逆襲という形に落ち着きました。

 SEXは一人でするものではありません。どちらかに問題が起こった時「二人で解決しよう」というスタンスのほうが気持ちが楽になるような気がします。

 愛のないSEXや愛のあるSEXがてんこ盛りなBL界。実生活でもパートナーがトラブルになった場合、見てみない振りや腫物を触るみたいなのは逆に傷つけることになる時もあります。

 

 気持ちをこめて相手に寄り添う。それが一番大事なのかもしれないですね。

 

 

 ……すいません。こんな内容の「あとがき」で。このような経験をしたので「薄陽」は生まれたのです!というお話しでした。

 

 

 おしまい