薔薇は冷酷な伯爵に溺れる。の番外編ss

 と、いうことで、番外編ssを書きました。

 萌えはあるのかは皆無ですが(ノД`)あうう何分へっぽこなもんで。

 とりあえず少しでもお楽しみくだされば幸いです(*^-^*)。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 クリフォード・ウォルターが経営する賭博クラブ、welfare’sは今日も賑々しい。

 紳士たちは日頃の鬱憤をここで晴らすべく、皆羽目を外して遊んでいる。

 カルヴィン・ゲリーもまた、このクラブの常連だった。とはいえ、カルヴィンの目的はカジノやダーツなどではない。彼は一階の賭博クラブには見向きもせず、踊り場の階段を上って二階へ向かった。


 相変わらずこの部屋は殺風景だ。固く閉ざされたバルコニーへ続く窓は遮光カーテンで覆われ、キングサイズのベッドとナイトテーブルのただそれのみ。ここの持ち主は特異体質だから太陽が昇る自分は無理だとしても、せめて夜だけでもカーテンを開ければいいのにと思う。

 ここの主。彼はそう、ヴァンパイアハンターだ。しかも政府から直々に雇われた凄腕の――。

 だから夜にしか活動しないこのクラブは情報収集もできるし打って付けの場所であった。

 当初、それを知らなかったカルヴィンは彼、クリフォードこそが白骨化遺体の殺人犯だと決めつけていたのだが、その実は違った。

 バラン・ド・ゴドフリー伯爵こそが犯人だったのだ。

 この場所には嫌な思い出もあるものの、真犯人が見つかった今はその思い出さえも塗り替えられつつある。

 この部屋は、自分が監禁され、そしてクリフォードに抱かれた場所。

 事件は見事解決したものの、クリフォードに延々と抱かれ続けた身体は熱を持ち、太く雄々しい彼を求めてしまう。


 ――いや、身体だけではない。心も、だ。


 今思えば一目惚れだったのかもしれない。彼の分厚い胸板は、姉を亡くし、悲しみに染まった不安定な心を寄り添いたいと思えるほどに力強く、澄んだ満月の瞳は惹きつけられてしまう。

 薄い唇だって魅力的だ。彼に唇を塞がれるたび、くぐもった声を上げて呼応する。

 そして、彼は誰よりも他人を思いやるこころ優しいヴァンパイアだ。

 結果として姉のクリスティーナは助からなかったが、しかし自分よりもずっと力が上の淫魔のヴァンパイアに戦いを挑み、弟のカルヴィンを救おうと動いてくれていた。


 彼の何もかもがカルヴィンを悩ませ、魅了した。

 

 身体が熱い。

 

 クリフォードの寝室にいるただそれだけでもカルヴィンの身体は疼き、熱を持つ。

 カルヴィンは細い身体に両腕を回し、壁にもたれる。もはや立っていられないほど身体が彼を求めていた。


「それで? 君はなぜまだここにいるんだ?」


 突如として背中から声をかけられた。

 魅惑的な唇から放たれる低音はみぞおちを振るわせる。

 この声の主はもう知っている。カルヴィンをここまで溺れさせたここの主人、クリフォード・ウォルターだ。


「あなたがここにいるから」


 振り向きもせず、答えるその声はとても甘い。

 艶やかな色香を放っていた。


「…………」


 カルヴィンはクリフォードを欲している。

 しかし彼はどうだろう。無言のまま、何も語ろうともしない。

 自分を抱いたのも監禁したのも、すべてはカルヴィンを守るただそれだけでしたことだったのか。

 では、この焼けるような熱も自分一人だけが感じているだけであって、クリフォードはそうではないのかもしれない。


 それもそうだ。なにせ彼は美しい。彼に纏わる黒い噂はいくらかあるが、それでも彼とベッドを共にしたい女性は少なくない筈だ。


 そう思うと、自分の身体を包んでいた熱は徐々に消えていく。


「いいよ、わかった。じゃあ下でみんなと飲んでくる」

 

 賭け事は苦手だが、それでもいくらか気晴らしくらいにはなるだろう。

 カルヴィンはそこでようやく振り向いた。たった一つしかないドアの前に立っているクリフォードと向かい合う。けれどもそれはほんの一瞬のこと――。彼を追い越し、ドアノブに手をかけた。

 ――直後。


 カルヴィンの腕は後ろ手に引っ張られた。

 同時に華奢な身体がベッドへと押し倒される。


 突然の出来事に驚きを隠せないカルヴィンは両足をばたつかせる。

 けれどもそれは太くたくましい身体が間に入り込み、阻止した。


「えっ、ちょっ! まっ、っふ!!」

 大きな影が視界を覆ったかと思えば、薄い唇がカルヴィンの口を塞いだ。

 くぐもった雄の声が耳孔に届く。

 間違いなく、クリフォードも自分と同じように互いの身体を欲している。

 

(……まったく、素直じゃないなあ)


 カルヴィンは両腕を広い背中に回した。

 

 **Fin**