短いはなし+びんかんウィルクス君。

こんばんは。あたたかくなってきました。

みに掌編を書いたので、載せます。

 

①薄暗いハイド×ウィルクス。

苦手な方はお気をつけてください。本編くらいの薄暗さです……。

 

 セックスの最中に、暗い虚しさに襲われるのはどういうわけだろう。シドニー・C・ハイドは汗ばんだ胸を上下させながら思う。いや。虚無感に圧倒されるのは射精の直後だ。男にとったら、そこでセックスは終わっている。
 彼は自分の腰の下で仰向けに倒れ、同じように胸を上下させている男の顔を見る。その表情に、ハイドは思わずこわばった自らの口端が緩んだのを感じた。なんて顔だ。ふだんの凛々しい、強面の美貌は崩れ去っている。淫らで、卑猥なほどだらしなく緩んでいた。ハイドは笑って、パートナーであるエドワード・ウィルクスの鼻の下を拭いた。
「鼻水、出てる」
 ウィルクスは呆然とハイドを見上げ、ドライオーガズムの余韻で虚ろな目のまま、真っ赤になった顔でへらっと笑った。
「シド、あ……愛してます……」
 口の端から涎れが垂れる。
 ぼくもだよ、とハイドは言った。ウィルクスの髪を撫でると、満たされた目がうっとりする。その目を見ながらハイドは思った。
 おれは性欲だけのセックスが好きなんだ。きみも知ってるじゃないか。
 ハイドはパートナーの頭を撫でながら空虚感に突き上げられ、鈍器のような憂鬱に苛まれた。胸に風穴が開いたかのような苦痛を覚える。
「キス、して」
 ウィルクスがねだってくる。ハイドは億劫だったが、大柄な体で覆いかぶさり、口づけた。
 もうしんどいよ、エド。生きていることが苦しい。どうせならセックスの最中に死にたかった。
 頭が痛くなる。軽くキスを繰り返して、ウィルクスはハイドの首に腕を回してうっとりしている。幸せそうだ。そのとき、ハイドはこの年下の男を殴りつけようとした自分に気がついた。ぞっとした。そんなこと、したいと思ったことも、実行しようとしたことも一度としてなかったのに。
 ハイドは怖くなった。終わりのない空虚感が吹きすさび、押し寄せて、彼の足元が崖の淵にまで届く。
 強くウィルクスの首筋を噛んだ。
「っう……っ!」
 ウィルクスは痛々しくうめいて、体を折る。ハイドが口を離すと、唾液と血が細い糸を引いた。
「きみは痛いほうが感じるんだったな。そうだね?」
 ウィルクスは虚ろな目で、怯えたようにハイドを見つめた。
「え……、あ、はい……」
 おどおどと答えるウィルクスに、ハイドの心は嗜虐心よりも怯えを感じた。もう一度同じ場所を強く噛む。
「っあ……! いたいぃっ」
 体を丸めてウィルクスが叫んだ。ハイドは強く噛みながら、その体の中は黒い嵐に貫かれていた。歯を立て、肉を断つように強く噛む。口を離し、ウィルクスの首筋に顔を埋めてつぶやいた。
「エド、おれ、怖いよ」
 ハイドの声には感情がなく、震えていた。ウィルクスはおずおずと彼の頭を抱いた。半ば白髪になった髪を指で梳いて、「そばにいますね」とつぶやいた。
 

②働くウィルクスと待つハイド。

けんか風味。

 

「あ、もしもし? シドですか?」
「うん。どうしたんだ、エド」ハイドは仕事机の上に置いた灰皿で煙草をもみ消した。
「今日も遅くなるって連絡?」
 電話の向こうで、ウィルクスはうなずいた。
「十時を過ぎると思います。先にメシ食ってください」
「忙しいんだな。働きすぎだよ」
「でも……仕方ないですよ。鑑識から報告が来るからそれだけは受け取っておかないと。通報が遅れて、捜査開始がすごく遅くなっちゃったんですよ」
「初動捜査は大事っていうもんな。でも、きみの体が心配だよ。このところはろくに休みもないし……」
「シド」電話の向こうで、ウィルクスは新しい煙草に火をつけたようだった。
「おれのこと、気遣ってくれるのは有難いです。でも、仕事だから」
「仕事だからと言って仕事するのはね……」
「あなただって」ウィルクスは煙を吐いてスマートフォンを握った。
「仕事してる。融通をきかせるから、とんでもないタイミングや時間で依頼人が飛び込んでくるじゃないですか。前にベッドで、あんなに盛り上がってたのに電話に出ましたよね」
「わかってる、あれは反省してる。でもきみだって似たようなことがあったよ。これから挿入というときに呼び出しの電話に出て……」
「おれは仕事なんです」
「ぼくも仕事だよ」
「重要な仕事なんですよ。おれが治安を守ってるとは言いません。でも、チームの一端は担ってる。仕事がきつかったり、職場で嫌なことがあって、辞めようと思うこともある。でも、なんとか辞めずに続けてこられた。それで精一杯なんです。あなたは体のことを言うけど、おれはまだ大丈夫です。ただ……コンディションが悪くなるとセックス依存が出てしまうけど、そうなるまでは……なんとか頑張らなきゃ……」
「エド、深呼吸してごらん」
 ウィルクスは言うとおりにしなかった。頑なにこわばった顔を思い描き、ハイドは強い愛おしさを感じた。
「きみを苛立たせてしまった。そうだな?」
「……いいえ、別に」
「きみはよく頑張ってる。だから、心配なんだ。ずっと頑張り続けることはできないよ。むりしてるってことだから」
「わかってます」
「頑張れなくなっても、自分を責めないでね」
「……はい」
 ウィルクスはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。声はかすかに震えていた。
「あなたの優しさに溶けていきたい。そう思うこともある。逃げられるなら逃げたいと思うこともある」
「逃げたらいい。『ピーナッツ』に出てくるライナスも言ってたよ。『そこから逃れられないほど大きな問題は、この世界にはない』って。でも、きみは責任感が強いからな」
「小心者なんですよ」
 煙を吸い込んで、ウィルクスは言った。
「あなたの声が聞けてうれしかった。ケンカみたいになってごめんなさい」
「謝らなくていいよ。あのやろう、くらいの気持ちでいてくれ」
「はい。じゃあ、シド」ウィルクスはかすかに笑った。「メシ、期待してます」
 うん、とハイドも笑って電話を切った。
 結局、ウィルクスが帰宅したのは日付が変わるころで、ハイドのつくった料理は食べられなかった。
 その日、ハイドはウィルクスを待ちながらぼんやり思った。ぼくもエドも、自分が言うことが正しいと思っているんだな。
 それでも、疲れ果てたウィルクスが居間に入ってきたとき、その表情が緩んだのを目にして、そして優しく額にキスしてくれたとき、ハイドはわかった。
 これからもこうやって、このひとと生きていくのだろうと。

 

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最近描いた絵も載せます。

びんかんウィルクス君。

もともとの素質と、ハイドさんの調教(溺愛)のたまもの♡

 

いつも、ご覧くださりありがとうございます(*゚▽゚*)

うれしく励まされています。

 

短い話は、またいつかまとめられたらいいなあと思います。