つれづれ日記1

平素より大変めちゃくちゃお世話になっております、石月です。。

 

来月は見たい映画が続々上映予定で、ジュマンジとか、パシフィックリムとか、インフィニティとか、春らしく脳内が浮き足立っていますンゴウホ。。

ただ、君の名前で僕を呼んで、は地元で上映されず、涙、涙。。

 

そしてそして「ゲスいコほどカワイイって言ーえ」や他作品に酉ウリ様より、「オ・ト・ナ系」に@akatoki様よりレビュー頂きました。。

 

どうもありがとうございます、照。。

もれなくモチベが上昇しました、涙。。

 

そしてそして、以下、「溺愛シンドローム」のおこぼれ小ネタです↓

 

■ポチ君のエイプリルフール

 

蜩のその言葉に凪は目を丸くした。

 

「嘘、ついてみてよ、ポチ君?」

 

蜩宅、外で夕食を済ませ、レザーソファの上でアイスを食べながら寛いでいたら、蜩が突拍子もない欲求を出してきた。

 

いや、そういえば、本日はエイプリルフール。
他愛ない嘘がいつにもまして世間に溢れ返る日ではあるのだが。

 

「……つまんない嘘だったら、罰ゲームとか、ありますか?」

 

チョコブラウニーのアイスクリームを掬っていたスプーンを咥えたまま、警戒する凪に、伊達眼鏡を外し、ワイシャツにスラックス姿の蜩は声を立てて笑う。

 

「ないない。でもまぁ、ちょっと考えてみてよ?」

 

春っぽい色合いの私服姿の凪はアイスクリームを食べながら考えてみようとしたが、ひょいっと、蜩に食べかけのカップを取り上げられてしまった。

 

「ほら、溶けちゃうよ」

 

サイドテーブルにスプーンの突き刺さったカップを置いて、蜩が、早く嘘をつくよう催促してくる。

 

嘘をつくのが苦手……というか、下手な凪。
当然、すぐには思いつかない。

 

しかし残りのアイスクリームを食べたいと思い、甘い味の残る唇をきゅっと結び、困ったような顔をして考え始めた。

 

どうでもいいことを真剣に考えるその健気な様をただ単に愛でたかっただけ。

 

そんな悪ふざけに興じた大人は、ソファと肘掛の間に深く背中を沈めて「うーん」と唸る少年を満足そうに眺める。

 

可愛いねぇ、全く。

 

そんな悪ふざけに付き合わされている凪は、一つ、深呼吸すると。
ソファの上で何故か正座をして蜩に向き直った。

 

「蜩さん」
「ん?」

 

さて、どんな可愛い嘘をついてくれるのかな?


悠然と待ち構える蜩をじっと見つめて凪は言った。

 

「ずっと黙ってたんですけど」
「ん?」


「俺、妊娠しちゃいました」


しばし静寂が流れた。

 

「……ポチ君」

 

しょうもない嘘を口走って赤面する凪に、蜩は、それは不敵な笑みを。

 

「嬉しいよ」
「え、あの、蜩さん?」
「俺とポチ君の子供かぁ、きっと可愛いだろうね」
「あの、今の、嘘」
「じゃあポチ君は俺の奥さんだね」
「ていうか、妊娠って、ありえない」

 

よからぬスイッチが入った蜩は、もう、止まらない。

 

「ねぇ、俺の奥さん?」
「あ、待って、あ、アイスが、ん、ぁ、溶けちゃう……っ」
「うん、溶けちゃうくらい愛し合おうね?」

 

凪の他愛ない嘘に一気に発情した蜩のせいで、結局、アイスクリームはどろどろに溶けてしまった……。

 

 

■闇金事務所で闇鍋、じゃなく、カキみぞれ鍋

 

「俺もご相伴にあずかってよかったんでしょうか」
「今更なに遠慮してやがんだ、しんちゃん!」
「そうですよ、シンジさんには大根をすりおろすという重労働をして頂いたんですから、どうぞ気兼ねせずに」
「シンジさん、ごはんのお代わり、ついできましょうか?」

 

雑然たる事務所の応接テーブル上にガスコンロ、手首が重たくなるまでシンジがすりおろした大根おろしのたっぷりかかった、ぷりぷり新鮮なカキ満載のみぞれ鍋。

 

ほんとにここ闇金なのか。

 

「自分でつぎます、佐倉さん」
「ほらほら、しんちゃん! あーん! あーん!」
「ごめんね、火傷確実だからカキあーん、は、ちょっと無理かな、黒埼君」
「男じゃねぇな、しんちゃん、兄貴はできっぞ、なぁ、兄貴!?」
「男にはな、できねぇことはできねぇこと、そう潔く判断を下すことも必要だ、覚えとけ、六華」

 

お湯割り日本酒を嗜みながら告げられた黒埼の台詞に六華は「兄貴かっけぇぇ」的表情を浮かべている。

 

要は激熱カキで口の中火傷したくないってだけの話なのに、大袈裟だよね、この兄弟。

 

 

■今更ながら闇金事務所のバレンタインデー

 

「アヤさん、買い物付き合ってくれ!」
「私、ですか? 私でよければ」

 

一体何の買い物だろうと、珍しい六華からのお誘いに綾人は首を傾げつつも恋人の弟についていけば。
六華が入ったのは女子に人気のあるお洒落なスイーツ店だった。


バレンタインデーを間近に控えた店内にはチョコレートのコーナーが設けられていて、会社帰りと思しきOLや女子大生がわらわら群れている。
全く気にしない六華、女子に混じって突入。

 

「へー、こんなに色々あんのか、ただのチョコっつっても侮れねぇな」
「六華さん、もしかして」
「ん、しんちゃんにあげようかと思って」

 

両手に二つの箱をとった六華は真剣に中身を見比べる。
イベント事が割りと好きなミーハー六華、とうとう女子のためのバレンタインデーまで渡す側として意欲的に楽しむつもりらしい。

 

「んだよ、これ、違いわかんねぇ」
「それ、どちらも同じ商品ですよ、六華さん」
「あ? あ、ほんとだ、畜生、今ので貴重な時間を無駄にしたぞ」
「数が多いのが、こちらのようですね。でもこんな、動物を模したような可愛らしいチョコレートが今はあるんですね」
「動物? ライオン? カバ? ゴリラ? 俺、強い奴がいい!!」
「ライオンやカバやゴリラはないようです」

 

商品を手にとっては真剣に見比べる男二人。
売り場にて明らかに浮いている。


やや天然の気がある綾人と六華は一切気にせずに商品をじっくり吟味し続けた。

 

「そもそも、しんちゃん、甘いもん食うのかな」
「それはまぁ、味の嗜好もありますが、頂くと嬉しいものでしょう?」
「アヤさん、兄貴にやんねぇのかよ」
「……黒埼さん、甘いもの食べられます?」
「俺に言ったことと、矛と盾じゃね、それ」
「あ、ごめんなさい」
「兄貴はな、なんっでも食えっから! だって兄貴は好き嫌いねぇから! 俺と一緒で椎茸とかキノコ類はムリだけどな!」
「それ、好き嫌いあるってことじゃないですか?」

 


「てなわけで、おら、チョコレート!!」
「嬉しいんだけど、黒埼君、あのね」
「な、なんだよ!? あれか、まさかしんちゃん、チョコアレルギーってやつか!? 食ったら蕁麻疹出んのか!? 見んのもダメ!? まさか気配だけで鳥肌出んのかよ!?」
「じゃなくて」

 

今日、十五日だよ、黒埼君?

 

「あ、ほんとだ」

 

やっと一日遅れということに気がついた六華にシンジはつい笑みを零した。
ちなみに現在、店頭に赤提灯のぶら下がる居酒屋のカウンターに二人はいた。


わいわいがやがや、おじさん連中が赤ら顔で熱燗片手に世間話に花を咲かせている傍らで、なんとも色気のないチョコレートの受け渡しである。

 

「ありがとう、黒埼君」

 

それでもシンジは嬉しかった。
お湯割りと牛スジ煮込みと肉じゃがを脇に寄せて、綺麗にラッピングされたチョコレートを受け取る。

 

「嬉しいよ」
「まじ? やったぁ」

 

暖房が効いているというのにモッズコートを羽織ったままの寒がり六華、無邪気に満面の笑顔を浮かべた。

 

可愛い、可愛すぎる。
お店の中なのにジャケット着たままで、そんな寒そうにして、今すぐ抱きしめてあっためてあげたいよ、黒埼君。

 

……俺、こういうキャラじゃなかったんだけど。

 

「でもゴリラとかシャチじゃねぇんだわ」

 

六華のそんな言葉がよく理解できなかったものの、密かにキャラ崩壊を来たすほどに胸ときめくシンジなのだった。

 


「そんなに気に入ってもらえて嬉しいです、黒埼さん」

 

綾人は結局チョコレートを買わなかった。
代わりに、昨日、チーズケーキを作って事務所に持っていった。
六華は「うめー」を連発して食べたものの、前日から事務所に寝泊りしていた黒埼は綾人がお菓子作りをしていたことなどまるで知らず、特に感想を述べるでもなく。

 

『うめー。でもなんでいきなり菓子なんか作ってきたんだ?』
『え? だって今日は、』
『仕事始めるぞ、お前等』

 

普段はいくら無駄話しようと放置している黒埼に六華との会話を中断され、綾人は内心「もしかして黒埼さん、チーズアレルギーだったのかも」と少しばかり不安になった。

が、今日になって「また作ってくれ」と言われて、ずっと気になっていた綾人は一安心し、残っていた材料でチーズケーキを再びつくった。

 

「あんた、店出せるぞ」
「大袈裟です」
「お世辞じゃねぇよ」

 

あっという間に手掴みで二つ平らげた黒埼は自宅の革張りソファに背中を落ち着けると、片づけを済ませてそばに立った綾人を引き寄せた。
膝上に座るよう無言で促された綾人は不安定な座り心地にぐらぐらしつつ、落ち着く姿勢に何とか辿り着いて、一息つく。

 

「料理がうまくて床上手、非の打ち所がねぇ」

ただ、あんた、いろんな線引きが甘い。

 

一重の鋭い双眸にじっと見つめられ、意味深な台詞を吐かれて。
綾人は黒埼が何を言わんとしているのか一生懸命考えようとした。
そして結局答えがわからずに素直に黒埼に尋ねた。

 

「どういう意味でしょうか?」
「一個多かったんだよ」
「え?」
「昨日、六華に取り分けた数が俺より一つ多かった」

 

それは黒埼が甘いものを本当に好むのかどうか不確かだったからだ。
悪いと思いながらも六華の「兄貴に食えねぇもんなんかねぇ説」をつい疑い、均等に分けて余ったチーズケーキはこの間チョコレートを試食しまくっていた六華に与えた。
どうやら黒埼はそれが気に入らなかったらしい。

 

「俺と弟、一緒にしないで、線引きしてくれないとな」
「線引き、ですか?」
「俺はあんたの男だろう?」

 

頷けずに赤面した綾人にやっと気を取り直した黒埼は笑った。

 

「あ、黒埼さん……」

 

さて、もっと床上手になってもらおうかと、ソファの上で自ら練習台となるのだった。

 

 

■タマネギじゃなくネギでも目がしみます/シンジ×六華

 

休日、シンジ宅に六華がやってきた。

 

「餃子~餃子~春は餃子の季節だぞ、しんちゃん!」

 

本日は昼下がりから手作り餃子をしこたま作って夕方前からビールを飲む予定。

 

「黒埼君、準備手伝ってくれる?」
「何すりゃいー?」
「……包丁、使えるよね?」
「しんちゃん、なめんなよ、兄貴には負けっけど刃物には充分免疫あるぞ、俺ぁ!」
「あんまり詳しく聞かないでおくけれど、じゃあ、手洗いしてからネギ切ってくれる?」
「うぉう!」

 

六華、大雑把な手つきでネギを刻み始める。
それから一分も経過しないうちに。

 

「ぎゃー!」
「どうしたの、指切った?」
「いっでぇー! 目がー! 目がー!」

 

ネギでばっちり目がしみた六華、ネギ切りを中断して「チクショー痛い」の連呼。

 

「そんなにしみた? 大丈夫?」
「こんないってぇの灰皿で頭殴られた以来だー!」
「絶対そっちの方が痛いと思うけど。あ、掻いたら駄目だよ、触らない方がいいから」
「ひー!」

 

白菜を茹でていたシンジの背中に頭をごりごり押しつけてきた六華。

 

「しんちゃん、いてぇよー」

 

為す術のない痛みを紛らわせるためにシンジに縋りつく六華。
振り返ってみれば涙がぼろぼろぼろぼろ。

 

……かわいすぎる、黒埼君。

 

「なに笑ってやがんだ! ひでぇドSだな! 鬼畜だな!」
「ごめん」

 

そう言われても笑みが止まらず、顰めっ面でぼろぼろ涙する鼻ピ六華の金髪頭を撫でてあげるシンジなのだった。

 

 

***

 

ではでは、おやすみなさいzzzzz