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第5話
「うん、書類も全部受け取ったし来週からよろしくね。」
「はい、よろしくお願いします。」
深々とお辞儀をすると、彼・・・奉日本春日(たかもと はるひ)は微笑んだ。
普通の店員だと思っていた春日は店長だった。
先程渡されたPRIMAVERAの制服、というよりエプロンを優専用になったロッカーに入れる。
あの後、面接や履歴書その他諸々を用意して雇って貰えることになった。
最初はバイトとしてだが、一定期間経ったら正社員になれるそうだ。
突然職を失って絶望的だったが、これで一安心だ。
帰路で優はずっと鼻歌を歌っていた。
そのせいで変な視線で見られた気がしなくもないが気にしない。
PRIMAVERAには一度訪れただけで虜になった。
そのPRIMAVERAで働けることが純粋に嬉しく、気分が高揚した。
「ご機嫌だな、優。会社が倒産したって聞いたから心配したんだけど。」
その声を聞くまでは。
「・・・光輝。」
ドアの前に立つその姿を見て、優はすっと体温が下がるのを感じた。
聞きたくないのに、自然と脳裏を掠めるあの言葉。
『気持ち悪いよな。』
「なんだよ、ボケっとして。久しぶりの親友に会ったのに嬉しくないのかー!?」
光輝に笑って肩を組まれる。
どくりと、優の心は波打った。
高鳴る鼓動は痛いぐらいで、甘く優を縛り付ける。
「嬉しいに決まってるじゃん、びっくりしたんだよ。」
光輝の額をツンと人差し指で押すと、光輝は顔をくしゃりと歪めて笑った。
-・・・可愛い。
その表情に、胸が疼いて堪らない。
好き、好きと心臓は鼓動を刻む。
高階光輝(たかしな こうき)、親友で初恋の相手だ。
優は今もまだ、光輝を好きでいる。
ワックスで整えられた黒髪、少しあどけなさを残した表情は可愛いけど恰好いい。
背も優より高くて、思わず見蕩れてしまう。
「そうだ、優にこれ渡しに来たんだった。」
そう言って渡されたのは、ビニール袋いっぱいの野菜だった。
「実家から大量に届いたから、お裾分け。」
「・・・ありがとう。」
会社が倒産して生活に余裕が無かったので、正直助かった。
「上がってく?」
お礼に夕飯でも作ろうかと誘うと、やんわりと断られた。
「本当は寄っていきたいんだけど、どうしても外せない用事があって・・・」
「そっか、仕方ないね。」
少し残念だが、ほっとする自分がいることに優は罪悪感を覚えた。
「じゃあな。」
そう言った光輝に手を振って部屋に入る。
-心が、苦しい。
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