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第6話
「よろしくお願いします。」
今日はPRIMAVERAで働く初日、失敗するわけにはいかないと胸を叩き気合を入れる。
「はい、よろしくね。」
そんな優とは対照的に、春日はいつも通りリラックスしている様子だ。
「マニュアルは読んであると思うけれど、一応大雑把に説明するね。」
「はい、お願いします。」
そう返事すると同時に、バックヤードの扉が開いた。
「春日さん、今日大学の教授が病気で休みらしいんで手伝えます。」
長身のその青年は春日の影に隠れている優には気づかないようだ。
春日より数センチ身長が高く、服の上からでも分かるように細身ながらしっかりと筋肉がついている。
色素の薄い春日とは違って、真っ黒な髪は短く耳下で切りそろえられている。
おそらく癖がつきやすいのだろう、髪型は恰好良く決まっているがワックスなどの整髪料はつけていないようだ。
すっと通った鼻は高く、唇は少し薄めだ。
黒曜石のような色をした瞳は切れ長で少し鋭い。
力強い、例えるなら黒豹のような青年だ。
じっと見ていると、その青年はどうやら優の存在に気づいたようで一瞬驚いた後に視線を一気に冷たいものへと変える。
「春日さん、誰ですか・・・それ。」
あからさまな嫌悪感を滲ませた顔で見つめられ、優は居心地が悪くなる。
「あぁ、言ってたでしょ?新しい子雇ったの。泉妻優くん。」
笑顔を浮かべる春日とは反対に、青年の表情は険しくなっていく。
「泉妻優です、よろしくお願いします。」
ぺこりと頭を下げると、鼻で笑われた。
さすがにそれは、優でも傷つく。
「あの子は崇(たかし)って言って俺の息子なんだけど・・・ごめんね優くん、冷たく見えるけど根は良い子だから。」
嫌いにならないであげてね、と続けられた言葉に優は曖昧に笑って返す。
優が嫌いにならなくても崇はきっと優の事が嫌いなんじゃないかと思う。
--嫌いじゃない、だけど・・・怖い。
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