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第8話

「おい、これ持ってけ。」 ずいっ、と焼きたてのグラタンを崇に渡される。 Yシャツに黒いスラックスという出立ちの崇は、PRIMAVERのエプロンからスマートフォンを出して耳に当てた。 その表情はどこか苛立っていて、優は触らぬ神に祟りなし、静かにグラタン皿を受け取って指定されたテーブル席まで運ぶ。 「お待たせしました。」 そう言ってテーブルにグラタンを乗せると女子高校生は「写メ写メ」と言いながらスマートフォンを取り出した。 PRIMAVERAは大人だけでなく高校生などの若い層から親子、老夫婦までの幅広い客層を相手にしている。 そんなに多く席があるわけではないが、PRIMAVERAは基本的に人が耐えない。 それなのに今までずっと春日と崇、それに亡くなった春日の妻、冬美の3人で営んでいたそうだ。 しかし、崇も大学等で忙しく春日1人で店を回さなければいけなくなり、流石に限界を感じていたので店員を募集したらしい。 春日は「優くんみたいな素敵な子で良かった。」と言っていたが、まだまだ慣れなく優は何度か失敗してしまっている。 優しい春日の為、そして崇からの小言攻撃を受けないためにももっと頑張らなければと思う。 崇は相変わらず嫌味ばかり言ってくるし怖いけれど、それは春日に関係することばかりだと最近気づいた。 春日に迷惑がかかる、春日が心配する、など口にこそしていないが態度で完全にわかる。 親思いな人だとはおもうが、少し違和感を感じるのは何故だろう。 空いたテーブルを拭くと、名前を呼ばれる。 「優くん、時間だから休憩入っていいよ。」 振り返ると、優しげに微笑む春日がウィンクをした。 まさか今考えていた人物に話しかけられるとは思わず、少し驚くが春日はそんな様子に気がついていない。 優は少し安堵して微笑み返した。

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