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第10話

「おい、足元。」 崇の声に足元を見ると、解けた靴紐が視界に入った。 このまま歩いていたらきっと靴紐を踏んでトレーの上のパフェは台無しになっていただろう。 「・・・すみませんでした。」 トレーを一旦カウンターに置き靴紐を結びなおす。 解けないようにしっかりと。 「おい、ぼけっとすんな。春日さんに迷惑がかかる。」 崇の嫌味に更に気持ちが下がる。 「すみません。」 ーーほんとに、だめだめだ。 「・・・っ!」 駄目だと思うのに瞳に涙が浮かぶ。 ーー駄目、駄目、大丈夫だから・・・!! 肩口で崇にばれないように涙を拭う。 「・・・おい、休憩だ。」 優の異変に気付いた崇に肩を叩かれる。 眉間に皺を寄せる崇を見て申し訳なさと恥ずかしさが胸を満たす。 「すみません。」 今優にできることはこれ以上崇と春日に迷惑をかけないように下がることだけだ。 バックヤードに下がると、堪えていた涙が堰を切って零れた。 ーー情けない。 ただ好きな人が自分を好きじゃなかっただけだ。 それなのに私情を仕事に持ち込んで周りに迷惑をかけた。 もうこんなことがあってはならない、涙を拭うとそっとマグカップを差し出された。 「はい、崇君から。」 「・・・春日さん。」 お礼を言ってマグカップを受け取ると赤茶色の液体が入っていた。 「それ、崇君のブレンドしたハーブティー。落ち着くよ。」 促されるままハーブティーを口に含むと、柔らかで落ち着く爽やかな香りが口内を満たした。 嚥下するとふわりとラベンダーの香りがした。 「・・・美味しい。」 また一粒、涙が零れた。 「優君・・・。」 はっとして涙を拭うと、春日は優の腕を掴んだ。 「我慢しなくていいんだよ、その為に崇君は休憩にしてくれたんだよ。」 そのお茶美味しいでしょ、と言う春日に優は静かに頷く。 「崇君が君のためにブレンドしたんだよ、今朝から無理しているようだからって。」 ーー崇くんが、わざわざ・・・? いつも優を鬱陶しそうに見ているのに。 「崇君、優君のこと結構気に入ってるからね。」 珍しい、と呟く春日を凝視する。 「嘘じゃないよ?嫌いだったら崇君は僕に行ってくるからね。前回の人はそれで雇わなかった。」 そんなことないと言おうと思ったのに、続いた言葉にそれを飲み込んだ。 「信じられないでしょ?でも一緒に仕事するのに仲が悪いのは良くないからね。」 一ヶ月半働いていて初めて見た春日の真面目な表情にそっとハーブティーを飲み込んだ。 「何があったか無理には聞かない、だけど優君を思っている人がいるってこと忘れないで。優君はできない子なんかじゃないよ。」 「・・・っ!!」 気付かれていた、優の大きく育った自責の念を。 その後はもう涙を止めるどころか拭うことすら出来なかった。

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