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第14話

「本当にごめんね。直ぐ帰ってくるから。」 マフラーを巻いて防寒バッチリな春日はそう言うと慌てた様子で出ていった。 店に残った優と崇の間には気まずい空気が流れている。 「は、春日さん大変そうですね・・・!」 そんな空気を何とかして壊そうと言ったひと言は何の捻りもない誰にだってわかるようなひと言だった。 「あぁ、そうだな。」 素っ気ない返答に会話はあっさり終了させられる。 優が泣いたあの日から崇は優を揶揄わなくなった。 腫れ物に触るようなというほど不自然な態度ではないし、普通なら気付かないような些細な変化。 以前優と話していた時には必ずと言っていいほど語尾に嫌味や小言がセットだったのに今ではたまに気を遣ってくるほどだ。 別に揶揄ってほしいなどとは思ってはいないが少し拍子抜けしてしまう。 それに優はまだハーブティーのお礼も言えていない、というか完全にタイミングを失った。 「そのスマホのストラップ、遊園地のだよな。昨日休みだったから行ってきたのか?」 ーー・・・また、気を遣ってる。 「う、うん。友達と。」 ぎこちない会話。 「そうか・・・」 再び訪れる沈黙はあの日から何回目だろうか、そろそろ辛い。 こんな時に春日は事故で遅れる食材を車で取りに行ってしまった。 今日はバレンタインデー用新メニューの試作品作りで店は休み、開店準備がないのでバックヤードで待機なのだ。 「・・・。」 息苦しい程の沈黙に先に値を上げたのは崇だった。 「・・・この前は悪かったな、泣くとは思わなかった。」 「え・・・」 予想外の科白に虚を突かれる。 「いや、あれは崇君のせいじゃ・・・」 もしかして今まで気を遣って来たり機嫌を窺うような不審な態度は優が崇のせいで泣いたと勘違いしていたからだろうか。 ソファーに座って膝掛けの隅を気まずそうに弄る崇が急に飼い主に叱られた大型犬に見えて目を擦る。 「気ぃ使わなくてもいい、あれは言い過ぎた。」 急に崇が年相応に見え、こんなこと言ったら怒られるだろうが途端に可愛く感じる。ところどころ跳ねている崇の癖毛をわしゃわしゃと撫でてやりたくなる。 ーー何なんだ?この可愛い生き物は!! 「・・・いや、ちょっと失恋したから。ハーブティーありがとう。」 思いの外スルッと本音が出た。 「・・・失恋?」 豆鉄砲を食ったような顔をする崇に頷くと崇は表情を一気に曇らせる。

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