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第16話
可愛らしくデコレーションされたワッフルにハート型のチョコプレートを乗せ、バレンタインデー期間限定ワッフルが完成した。
一週間前に考案した期間限定メニューの中で一番注文数が多いのがこのワッフルだ。
バレンタインデー七日前からバレンタインデー三日後の十日間だけの限定メニューの売れ行きは好調で優も作るのを手伝わされるくらいだ。
「おい、ミスるなよタコ。」
通りざまに揶揄ってくる崇に、うるさいなイカと返すと鼻で笑われた。鼻で笑われると普通に笑われるよりイラッとすると以前光輝が言っていたがその意味が今はよくわかる。
それでもこんな軽口を叩けるのが崇と近づけた証のようでうれしくもあるのだ。
優は今まで軽口で話し合うような友人はいなかった。別に友人がいないわけではないが基本的に軽い冗談を言うぐらいで常に相手に対して一歩引いた付き合いをしている。
唯一それらしい会話をするのは光輝ぐらいのものなのだが、光輝から嫌われたくないしどこまで踏み込んでいいのか分からないという気持ちがその願望より勝っていた。
それに対して崇は向こうから優に嫌味ともとれるような軽口をたたいてくるから、優もそれを返していいんだと思えた。
そんなに長い付き合いではないのにこんなに親近感を覚えたのは初めてだ。この前まで苦手だったのが嘘のようだ。
優に兄弟はいないが、いたらきっとこんな風なのだろうかと思う。
無愛想な顔で接客する崇は以前のように怖くはないが代わりに崇は時折物凄く悲しそうな表情を浮かべるのだ。
それは春日も同じできっとこの親子には共通した何か悲しいことがあるのだと気づかずにはいられなかった。
気になる、でも踏み込んではいけないとも思う。
眉間に皺を寄せて見つめる優の視線に気付いたらしい崇がぶすっとする。
「さっさと仕事しろ、鈍亀。」
その表情はいつも通りの意地悪な崇のもので優はどこか悲しく思うのだった。
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