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第17話
優が店に行くと崇がいなかった。
最初は大学かと思ったがどうやらそうではなく高熱で寝込んでいるらしい。毎年恒例のことで、この季節になると崇は丸一日寝込むのだという。
その為毎年二月十二日は休みにするらしいのだが、今年はどうしてもという客が来るらしい。その客だけなので一人でこなせる仕事量なのだが、そうすると崇の看病が出来ないから優に頼みたいとのことらしい。
関係ない仕事でごめんね、と謝る春日に全然いいですよと返して二階へと上がる。
初めて上がる二階は一階と同様に木目が綺麗だった。真っ直ぐ続く廊下に部屋が左右に三つの計六部屋だ。
その他にも風呂場と簡易キッチンがあり、どこも掃除が行き届いている。
左の二つ目の部屋が崇の部屋らしく、名前の書かれたプレートがぶら下がっている。数回ノックして部屋を開けると生活感のない部屋が広がった。
書き物机と椅子、クローゼットとベッドだけの部屋のカーテンは白く窓際の空き瓶に小さな白い花が飾られていた。
窓際にくっつけるように配置されたベッドには苦しそうに呻く崇が横たわっていた。顔を赤くし、苦悶の表情を浮かべる崇の姿が痛々しい。
「崇くん、大丈夫・・・じゃないよね?」
取り敢えず、持ってきたタオルやミネラルウォーター、スポーツドリンク、薬やその他諸々を机の上に置かせてもらう。
起きながら崇を横目で様子を窺う。
赤い顔で苦しそうに息をする崇に、優は胸が苦しくなる。
「・・・っはぁ、はぁ・・・ぐっ・・・!!」
「崇くん、ご飯とか食べられそうかな・・・?」
この様子だと、少し厳しいかもしれない。
取り敢えず、絞ったタオルで顔の汗を拭いておく。
汗には体温を下げ熱を放出する機能がある為乾いたタオルは使えない。しかし、拭わないと身体を冷やしてしまうので濡れタオルで拭うのだ。
額を伝う汗をタオルで拭うと、崇の閉じた瞼の隙間から、涙が零れるのを見た。
「・・・雨だよ・・・だ・・・め、だ・・・。」
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