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第20話
崇side
それはまだ寒さが抜けきらない時期の事だった。
崇の名前はその頃古川崇 で、まだ保育園に年中さんとして通っていた。
保育園にも春休みというものはあって、両親が共働きの崇も春休みは家族で旅行する予定だった。
カメラが好きな父はカメラを念入りに整備して、運転好きな母は鼻歌交じりに洗車していたのを覚えている。
「崇、そろそろ行くぞ。」
そう言われて崇も荷物の入ったお気に入りのリュックサックに、お気に入りの猫のぬいぐるみを持った。
車は順調に目的地へ向かって行く。
窓を開けると、涼しい風が顔を撫でるのが楽しくて何を言っているのか分からない英語の歌を格好つけて流してもらった。
「うーん、渋滞・・・流石春休みだわ。」
高速道路に乗ると春休みで引っ越す人や旅行する人で渋滞が起きていた。
「パーキングエリア、今のうちに行っておいた方がいいわね。」
崇のトイレの心配をした母は、そう言ってパーキングエリアに止まった。
崇がトイレを済ませて戻ると売店が目に留まって、堪らなくお腹が空いた。
「母さん、お腹空いた・・・」
崇のそのひと言で昼飯を摂ることになる。
崇はエビチリセットを頼んだ。
特にエビチリが好きなワケでは無かったが、無性にエビチリが食べたくなったのが理由だ。
昼飯を食べて外に出ると雨が降り始めた。
大した雨でもないし問題ない、崇を乗せて車は発射する。
やっぱり渋滞は解消されていなかったが、家族で取り留めのない話をしながらゆっくりと渋滞を進んでいく。
暫くすると渋滞も抜けて車は快調に走り出す。
高速を抜けて海沿いを走る。海沿いの道はカーブが多かったが、運転が得意な母は難なく走っていった。
そんな時、急に崇を腹痛が襲った。
恐らくだがエビチリの刺激成分が胃を刺激したのだろう。
崇は元々あまり胃が強い方ではないのでよく腹を壊していた。
「・・・腹、痛い。」
「えっ、うそ・・・」
腹を抱えて蹲ると母は大丈夫、と後ろを振り返った。
「ちょ、母さん前・・・!!」
父がそう言った時はもう遅い。
丁度カーブが差し掛かっていて今の勢いだとレールに当たって怪我をするか最悪レールが外れて落ちていただろう。
母は慌ててハンドルを切った。
いつもならそれで問題無いはずだった。
しかし、雨でタイヤはスリップして反対車線に飛び出す。
向かってくる大型トラックがゆっくりして見える。
数秒後、車体が激しく揺れ、崇は意識を手放した。
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