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第22話

優side 「だから俺はこの季節になると熱を出すし、雨が嫌いだ。」 淡々と告げられる言葉になんて返したらいいのかわからない。 覚悟はできていた筈だ。 それなのになんと言ったら正しいのか言葉が浮かばない。 「俺は春日さんの息子じゃない。母さんの兄が春日さんで俺は引き取られたんだ。」 何を言えばいいのか、わからない。 それでも分かるのはまだ崇がその事に苦しんでいて、罪悪感を抱えて生きているということだ。 長い間その罪悪感を1人で背負って生きてきた、その事実が余りにも酷で悲しい。 「崇くん・・・」 思わず頼りないその体を抱き締める。 見た目は立派でも、まだ頼りないこの男は1人で重石を抱えて生きてきたのだ。 誰にも助けを求めず、10何年間もずっと。 抱き締めても抵抗しないという事が如何に崇が弱っているかを表しているようで痛々しい。 きっとこの先もずっと罪悪感を背負って生きていくのだろう。 何も悪くないのに自分を責め続けて。 「・・・崇くんは、悪くない。」 無責任だと分かっていた。 現にそれを聞いた崇は苛立ったように優を突き飛ばし、睨みつける。 「お前に、何が分かるんだよ・・・!!全部俺のせいだ!!」 キッと睨みつける様子が怪我をした野生動物のようで、どうにも崇が幼い子供に見えて仕方ない。 「・・・崇くんは悪くないよ。」 「うるさい!!黙れ!!俺が悪いんだ全部!!父さんも母さんも俺のせいで死んだんだ!!俺が殺したんだよ!!」 全部自分が悪い、まるで自分に言い聞かせるように崇は繰り返した。 「崇くんのせいじゃない。」 「・・・っ、うる、さい・・・だまれ・・・全部、俺のせい・・・俺の、せい・・・」 瞳いっぱいに涙を溜めて、必死に呟く崇に優は確信する。 崇は崇自身をわざと縛り付けているのだと。 「崇くんは悪くない、自分を責めないで。」 崇の周りにはきっと崇を許してくれる人がいなかったのだろう。 ずっと傍にいた春日は崇の母の兄で、例え春日が許したと言っても崇は信じられなかった筈だ。 崇自身が家族を失う悲しさを味わったのだから、同じく家族を失った春日の悲しみは変わらない。 春日では崇を許すことができないのだ。 「崇くん、崇くんは悪くないんだよ。本当は分かってるでしょ?」 崇は自分を許すことができない、だからこんなにも苦しい。 優には崇を許す権利なんてない。だからといって苦しんでいる崇を放っておけない。 俯いて震える崇はまだ事故にあった頃の幼い崇のままだ。 「崇くん、急には無理でもゆっくりでいいから。自分を許してあげて。」 もう一度、ゆっくり崇を抱き締める。 抵抗されることは無い。 「崇くんが自分を許せるようになるまで傍にいるから、ずっと。どこにも行かないから。」 ぽんぽん、と頭を撫でるとギュッと抱き締め返される。 「寂しかったね、よく頑張ったね・・・」 頼りない頭を優しく、何度も何度も撫で続けた。 崇はベッドに座ったまま、優の腹に顔を押し付けるように強く抱き締めてくる。 時折聞こえる吐息や小さな嗚咽に崇が泣いているのだとわかった。 暫く頭を撫で続けていると崇の力が抜ける。ゆっくりと身を離すと眠っていた。 「よく頑張りました。」 優はもう一度崇の頭を撫でた。

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