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第23話
春日said
規則正しい寝息に春日は息をほっと吐いた。
この様子ならきっと大丈夫だろう。
優に大役を背負わせて申し訳ないと思いつつ、感謝していた。
過去に戻れていても、これが失敗しても、春日はきっとこの行動を悔いたりしないのだと思う。
元々失敗するなんて微塵も思っていなかったが。
見た目と振る舞いで優しそうとか、純粋そうと言われる春日だが、実のところは中々腹黒、というか計画犯であるだろう。
本当に心が優しいのは優だ。
だからそれに漬け込んだ。
崇は苦しんでいた、それは崇のせいじゃないし、誰のせいでもない不注意の事故。
誰に責任がある訳でもない。
崇の母、春日の妹の余所見運転は悪かったと思うが。
崇は死因をエビチリに、エビチリを食べた自分のせいにした。
死因エビチリ、それだけ聞くと滑稽で笑ってしまうが、崇にとっては何年も苦しみ続ける程重要な事だ。
崇は未だにエビチリを食べることが出来ない。
だけど崇だって自分が悪くないことを少し考えれば分かるはずだ。
自分を責め続けるのはもしかしたら、自分だけ生き残ってしまった罪悪感か、春日に対する後ろめたさなのかは分からない。
幼い頃の傷というのは思いの外大きいもので、崇は春日の許しを素直に受け取れなかった。
崇の母の兄という立場がそれを邪魔した。
大人だから我慢していると、本音を隠していると思われた。
だけどそれももう大丈夫だ。
優という第三者が崇を過去から解放してくれた。
初めて優と話した時、何となくこの子ならいけるんじゃないかと思った。
事実、崇の目の下は赤く、瞼も少し晴れている。誰かの前で崇は泣くことができた。
そばにいることしかできなかった。
大事な甥っ子なのに。
「冬美、やっと崇は泣くことができたよ。」
愛しい人の名前を呼ぶ。
最後まで崇を心配していた彼女は安心してくれるだろうか。
「ねえ崇、キミは甥だけど、僕達の息子でもあるんだ。」
撫でた髪がするりと指からこぼれ落ちる。
きっと崇は来年、体調を崩すことはない。
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