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領解
「うわ……っ!」
玄関先で固まる遥翔は新に手を引かれ、2階の自室に連れ込まれるとそのままベッドに押し倒された。
両手首を左手で一纏めにされ、頭上で押さえ込まれると同時に、太ももの上に跨がられる。
「ちょ、新…っ!なに、すんだよ…!」
体を捩って逃れようとするが、押さえつけられた手首はビクともしない。
普段はぽやん、としていてもやはり男なのだと思い知らされる。
離せと睨みつけるが、新の眼鏡がベッドサイドに置かれた橙色のテーブルランプの灯りに反射してしまい、表情が読み取れない。
いつも上がっている口角も、今は真一文字に結ばれていて、この男はもしかしたら新ではないのかもしれないという錯覚すら起こしそうになり、遥翔の背中に冷たい汗が滲む。
「あ…新、なぁ、やめろって。お、俺達いくら幼馴染みっていったって、男同士、なんだから、さ…。こんなの、おかしいって。なっ?」
わざと明るい声を出して笑ってみせるが、情けないくらい声が震えてしまう。
「…そうだよね。ハルは女の子が好きなんだもんね。だからさっき電車の中で隣にいた女の人の胸を見て、ここを固くしちゃったんでしょ…?」
「え…?うぁ……っ!」
なんのことだと問いかけようとした瞬間、ジーンズの上から股間をきゅ、と握られ腰がビクリと跳ねる。
「ああ、少し萎えちゃった?でも、中途半端な感じだよね。大丈夫、ちゃんと気持ち良くイカせてあげるから。」
「え……」
カチャカチャと音を立て、右手で器用に遥翔のベルトを外し、ジッパーを下ろすと下着の上からゆるゆると手を上下に動かす。
「……っ!」
そこを他人に触られたのは初めてで、自分でするのとは全然違う甘い刺激に、遥翔はビクビクと体を震わせる。
「ハルは敏感だね…。」
「ン…ッ!」
耳元で囁かれ、思わず洩れた声に遥翔は驚いた。
(何、今の……俺が、出したのか…!?)
戸惑う遥翔を他所に、新が再び遥翔の耳に囁きかける。
「…あの人……香織に似てたよね。」
「……っ?」
「顔じゃなくて、雰囲気がさ。香織はあんな服着ないけど、胸の大きさは近かったかな。」
「新……?」
自分が思っていた事と同じ事を思っていた新に驚きながら、胸の大きさがなんだというのだ、と眉根を寄せる遥翔に、ようやく新がクス、と笑った。
「そんな顔しないでよ。付き合ってた頃からセックスなんて普通にしてたんだから、香織の胸の大きさを知ってて当然でしょ?」
「……っ!」
かあっ!と遥翔の顔が一気に赤くなる。
そんな事はわかっている。
けど、なるべく考えないようにしていた。
新がどんな風に香織を抱くのかを…。
その逞しい腕でしなやかな肢体を抱き締め、指に髪を絡め、柔らかな胸に顔を埋め、全身にキスをし、何度も欲望を突き立て、絶頂に達する。
その背中には香織がつけた爪痕があるのだろうか。
想像しただけで、おかしくなりそうだった。
「ハルも香織としたかった?」
「は…?」
「大好きだった香織が、自分じゃなくて僕のことが好きだって知った時、どう思った?」
「新…?おまえ、何言っ…」
「僕は、嬉しかったよ。」
それは、そうだろう。
香織は美人で性格も良く、男女問わずモテた。
そんな香織と幼馴染みというだけで、優越感すら感じていたのだ。
その香織が自分を選んでくれた。
嬉しくないわけがない。
だから恋人になって、結婚もしたのだ。
何故、今そんな話をするのか。
絵里奈の話をするつもりで部屋に呼んだのではないのか?
……もしかして、これは牽制なのだろうか。
絵里奈との事を邪魔するな、と。
それならこれは嫌がらせ?
いや、新に限ってそれはない。
けれどそれは、いつもの新なら…の話だ。
香織を喪い、心に開いた穴を埋めてくれるかもしれない相手に出会ったのなら、なりふりなんて構っていられないのかもしれない。
幼馴染みだろうがなんだろうが、嫌がらせをしてでも手に入れたい存在なのだろう。
結局、男の自分では、その穴を埋める事なんて出来るわけがなかったのだ。
そう思ったらなんだか納得がいってしまって、遥翔は思い上がっていた自分を自嘲した。
そうとわかれば、とにかくまずこのおかしな状況を元に戻さなければ。
それからちゃんと、新の話を聞こう。
「新、あの…」
「嬉しかったよ。だって、これでハルを香織に奪られなくて済むって思ったから。」
「………は………?」
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