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再会
2年ぶりの日本。
イタリアでの修行を終え、日本での就職先も決まり、自分の店を持つという夢と希望に満ち溢れ、大好きな家族や幼馴染み達との再会に胸踊らせていた。
そう、昨日までは。
和臣からの電話に出る、それまでは……。
ゲートを出ると、迎えに来ていた和臣がこちらに向かって手を挙げている。
2年ぶりの和臣は、また少し背が伸び、体つきもグッと逞しくなり、大人の男になっていた。
結局、通夜の時間には間に合わなかったが、それでも告別式の前に香織と新に会いたかった。
「ハル!」
和臣に呼ばれ、遥翔はスーツケースを引きながら小走りで向かう。
「和……ただいま。」
「おかえり、ハル。感動の再会といきたいところだが、すぐ会いたいだろ。」
「ああ。」
逸る気持ちを抑えながら、車に乗り込む。
通夜は終わってしまったが、少しでも早く会いたくて、実家には寄らずに直で斎場へと向かう。
イタリアへは礼服を持って行かなかったから、飛行機の中でなるべく黒い服を選んで着替えた。
着替えている時もまだどこか他人事のような感じがしていたのに、斎場の入口まで来て、遥翔は足が重くなった。
体が震えているのが自分でもわかる。
「……ハル…、大丈夫か……?」
「あ、ああ….ごめん…今、行くから……。」
和臣に背中を支えられ、なんとか中に入る。
廊下を進み、左側の会場に祭壇が設置されていた。
香織が大好きだったガーベラがふんだんにあしらわれ、その中央には満面の笑みを浮かべている香織の遺影。
「………っ」
どうしてだろう、何故、自分はまだこれが現実だと思えないのだろうか。
まだ心のどこかでこれがサプライズだと思いたいという気持ちを捨てきれない。
「ハルちゃん……?」
「!」
後ろから声を掛けられ、遥翔の心臓が跳ねた。
その声は、香織だった。
ホラ、やっぱりそうだ!
サプライズだったんだ!
みんな、意地が悪い。こんなに大掛かりな、斎場まで使ってサプライズなんて。
でもいい、香織が生きてるなら許す!
振り返ったらそこに香織がいて、いつものようにあの人懐っこい笑顔で言うんだ。
『ふふっ!上手くいった!どう?ビックリした?ハルちゃんたら、イタリアへ行ったっきり全然連絡くれないんだもん。これくらい意地悪してもいいでしょう?』
って。
そうだよな、そうだろ!?
しかし、振り返った場所にいたのはもちろん香織ではなかった。
「……沙織おばちゃん……。」
そこにいたのは、香織の母親だった。
もともと母親似だった香織は、成長するにつれ声まで似てきた。
おかげでよく電話で母親に間違えられるのだと笑いながら話していたのを憶えている。
「わざわざイタリアから急いで帰ってきてくれたんですって?香織のために、ありがとう。香織に会ってあげて。ハルちゃんに会えるのをとても楽しみにしてたのよ……」
言いながら泣き崩れてしまった母親を父親が抱き抱えるようにして椅子へと座らせた。
突然愛娘を喪った哀しみは、親にならなくてはわからないのかもしれないが、憔悴しきったその顔を見れば想像に難くない。
「和……、香織は……?」
「こっちにいるよ、行こう。」
向かったのは、家族の控え室だった。
長テーブルが2列ある洋室と、小上がりの6畳程の和室があり、棺は洋室の一番奥にあった。
そこに一人の男性が立っている。
誰、なんて疑問は欠片も持たなかった。
顔を見なくてもわかる。
新だ。
遥翔はゆっくり近づき、新の隣に並んだ。
まだ、香織の顔は見られない。
「……ハル?」
驚きを隠せない声に、自分より12cm高い身長の新の顔を見上げる。
「新……。」
酷くやつれた顔に、遥翔の胸が締め付けられる。
「香織のために、帰ってきてくれたの?ありがと、ハル。顔、見てやって。」
力なく笑う新に言われ、意を決して視線を落とす。
「…香織…!」
そこに横たわっているのは、間違いなく香織だった。
2年前より大人っぽくなり、ピンクより赤い口紅が似合うようになっている。
男兄弟しかいない遥翔は、面倒見が良く、しっかり者の香織をまるで姉のように慕っていた。
本当に本当に、大好きだったのだ。
「キレイでしょ。メイクしてもらったから、生きてるみたいだよね。」
ほんのりピンクのチークを乗せた頬をそっと撫でると、ヒヤリとした硬い感触にビクリとし、思わず手を引いてしまう。
「うん…触ると嫌でもわかっちゃうよね…。冷たくて、硬くて…。もう二度と目を覚まさないんだって思い知らされるんだ。」
まるで他人事みたいに穏やかに言う新が、逆に深い哀しみを湛えていることに誰が気付くだろうか。
「香織……香織…!!」
呼んでも返事が返ってくるわけじゃない。
わかっているけど、呼ばずにいられない。
ポツ、と涙が一粒、香織の頬に落ちる。
一粒落ちたら、後はもう堰を切ったように涙が溢れ出た。
「なんで……ッ!なんでだよぉぉっ!!香織ぃぃぃぃっ!!」
「ハル……」
泣き叫びながら崩れ落ちた遥翔を、新がそっと抱き締める。
そして、遥翔と新を和臣がさらに抱き締めた──────。
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