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前進

翌日、遥翔は新と和臣を呼んで3人で夕食を食べるために、朝から仕込み作業に追われていた。 ゆうべは和臣の都合が合わず、明日なら…ということになったのだ。 両親は法事で遠方の親戚のところへ泊りがけで昨日から出かけているし、4歳上の兄、飛翔(かける)は京都で和食店のオーナー兼料理長として忙しい日々を送っている。 家族には申し訳ないが、留守にしてくれているおかげで3人でゆっくりと食事が出来る。 「よし、こんなもんでいいかな。」 一通りの下拵えを終え、遥翔はふぅ、と息を吐いた。 母が料理好きなおかげで、実家のキッチンは他の一般家庭に比べて広いし、調理器具も充実している。 おかげで店で出すのと同じように調理出来るのがありがたい。 「ちょっと休憩。」 んーっ!と伸びをし、居間の窓を開けると、インターホンを押そうとしている新を見つける。 「新?」 「あ、ハル。ごめんね、急に来て。」 「や、別に大丈夫だけど…、待ってろ、今行く。」 玄関まで急ぎドアを開けると、そこには笑顔で立っている新の姿があった。 「どした?なんかあったのか?」 「ううん、家にいたら良い匂いがしてきて…、そしたらお腹鳴っちゃってさ。匂いにつられて来ちゃった。」 「新……腹、減ったのか…?」 「うん、そうみたい。」 「そっか……そっか。」 良かった…と、遥翔は心底ホッとした。 今夜、新が食べてくれなかったらどうしようと不安だったのだ。 新は優しいから、きっと少しは食べてくれるだろう。 けど、それではなんの解決にもならない。 新にちゃんと食事をして欲しい。 香織の死を受け入れ、乗り越えていくのに時間がどれだけかかろうとも構わない。 けれど、新の体に異常をきたすことだけは絶対に避けたかった。 だから、腹が減ったという新の前進が本当に嬉しかった。 「何か食べるか?今やってるのは夜の分の仕込みだけど、簡単なものならすぐ作れるからさ。」 「ホント?嬉しい。今みんな出かけてて。一人でごはん食べるのもなぁと思って、思い切って来てみたんだ。」 「ん…そっか。とにかく上がれよ。」 「うん。おじゃまします。」 新をダイニングテーブルに座らせると、新の腹の虫が元気に鳴いた。 「あはは。結構腹ペコみたい。」 「待ってろ、すぐ作るから!イタリアンじゃなくてもいいか?」 「もちろん。イタリアンは夜のお楽しみだもんね。」 嬉しそうに笑う新に泣きそうになりながら、遥翔はなるべく胃に優しい料理を作り始めた。

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