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再燃

「ごちそうさまでした。」 両手を合わせ、軽くお辞儀をする新に遥翔はホッと胸を撫で下ろした。 風邪を引いているわけではないが、やはり胃に優しいものといえばお粥!と、ネギと卵を入れたお粥を食べさせたのが正解だったのか、新は残さずキレイに全部平らげた。 「ありがとうハル。すっごく美味しかった。」 「そっか、良かった。待ってろ、今お茶淹れるから。」 「あ、僕やるよ。」 食べ終わった食器をシンクに運ぶと、隣に新が並ぶ。 「いいって、俺やるから。新は座ってな。」 「大丈夫だよ。ハルは昔から過保護なんだから。」 クスクス笑いながら、通いなれた倉持家のキッチンでお茶の準備を始める。 小さい頃から遥翔がキッチンで料理をするのを、和臣と香織と3人で一緒に見守ったり、時には並んで料理したり…と、ここは4人にとってなくてはならない場所でもある。 2人分のお茶を淹れ、リビングのソファに並んで座ると、新がふふっと笑った。 「ん?どした?」 「昔さ、小学生の頃。僕が風邪引いた時、ハルがお粥作ってくれたの思い出した。」 「ああ…。」 そういえばそんなこともあったっけ、と当時を振り返る。 その日は新の両親が仕事で帰りが遅いとのことで、新を倉持家に泊まらせることになった。 連日続く熱帯夜で、新とハルはお風呂で一緒に水浴びをし、はしゃぎ疲れた2人は、ちゃんと髪を乾かすよう遥翔の母親に言われたにもかかわらず、そのまま寝落ちてしまったのだ。 翌日、新は見事に風邪を引き、遥翔は母親に烈火の如く叱られた。 「今でも不思議なんだけど、なんで僕は風邪引いてハルはなんともなかったんだろう。ハルだって髪乾かさないで寝ちゃったよね?」 「それは俺も不思議。」 条件は同じはずだったのに、風邪を引き熱を出したのは新だけだった。 責任持ってあっくんの看病をしなさい!と母親に叱られた遥翔は、新のためにネギと卵を入れたお粥を作った。 熱のせいで味なんてほとんどわからないだろうに、新はそれを美味しい美味しいと言って食べてくれた。 「あの時と同じ、優しい味だったよ。」 そう言って優しく微笑む新に、遥翔の胸がドキン、と鳴る。 「香織もお粥作ってくれたことあったけど、やっぱり僕、ハルのが一番好きだなぁ。」 「ば…ばか、そんなこと言ったら香織に怒られるぞ。」 なるべく動揺が伝わらないように、お茶を飲んで誤魔化す。 (バカ!ドキドキすんなよ、俺!新が結婚するって言った時に、新のことはキッパリ諦めたはずだろ……!!) 「ははっ。香織も知ってるから大丈夫だよ。料理だけはハルちゃんに敵わないっていつも言ってたし。」 料理、だけは───。 その言葉に、遥翔の胸が締め付けられる。 じゃあもし、俺が女だったら? そしたら、新は香織ではなく自分のものになっていたのだろうか。 新は、自分のことを好きになってくれたのだろうか……。 「…ハル?どうかした?顔色良くないけど…、風邪?」 「え」 ふわりと頬を両手で包まれると、軽く顔を引き寄せられたかと思うと、おでこをコツンとくっつけられる。 「や、あの、ちょ、あ、新…っ!」 「んー、やっぱりちょっと顔熱い気がする…。」 それはお前がいきなりこんなことするからだーっ!! と、遥翔は心の中で絶叫する。 「ハル、もし具合悪いなら、今夜の食事はやめたほうがいいよ。」 「や、違う。ホントに大丈夫だから!」 顔やら首やらをペタペタ触ってくる新に、遥翔の心臓は早鐘を打っていた。 「ホント?」 「あ、ああ。ホントに。だから気にすんな。」 「なら、良いけど…。無理しちゃダメだよ?」 「わかってる。俺ちょっとトイレ…。」 そそくさとトイレに避難した遥翔は、大きな溜め息を吐いた。 「……マジかよ……。」 両手で顔を覆いながら、ジーパンの股間部分を持ち上げているそれを絶望的な気持ちで見下ろす。 「全然…諦めきれてねぇじゃん…。しかも何興奮しちゃってんだよ俺……。」 そう呟き、もう一度大きな溜め息を吐き、項垂れた。

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