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憤怒

「やっぱり、でか……っ」 何階建てなのか数えるのを諦めるほど天高く聳え立つビルを見上げる。 思ったより早く着いてしまい、入口がまだ開いていなかったので、近くのカフェで時間を潰してから改めて来たのだが、まさかこんなに立派な会社だとは思っていなかった遥翔は、凄いところで働いている新をなんだか自分の事のように誇らしく思う。 遥翔は足どり軽く中へ入ると、吹き抜けのロビーを縦断し、突き当たりの受付へと向かう。 2人いるうちの1人の受付嬢が遥翔に気づき立ち上がると、あっ!と声を上げた。 「あれ?」 「ビックリしました…!」 そこには、先程助けた少女が受付嬢として座っていた。 「ここで働いてるの?」 「はい…。あの、なんでここに?」 まさかこんなにすぐ再会するとは思わず、お互いなんだか変な雰囲気になってしまい、妙にソワソワしてしまう。 「ああ、実は俺の幼馴染みもここで働いてて。着替えを届けに来たんだ。」 「そうだったんですね!着替えってことは…研究員の方ですよね。お呼びします、どなたでしょう?」 「北條新なんだけど。」 「あ、北條さん…!」 「知ってる?」 「はい、もちろん。有名ですから。お呼びしますので、一応お名前だけ頂戴しても宜しいですか?」 「倉持です。」 「倉持様ですね、かしこまりました。お待ちください。」 少女は目の前にある電話の受話器を取ると、ボタンをプッシュする。 有名ってどういう事だろう、新はそんなに優秀なのだろうかと、また誇らしくなる。 「すぐに来られるとの事ですので、そちらのロビーでお待ちください。」 「ありがとう。」 ロビーにいくつかあるソファに座り、吹き抜けを見上げると、5階まで吹き抜けになった天井からは、品の良いシャンデリアが吊られ、周回するように各階に廊下が渡されている。 ほどなくして、奥の方からパタパタとこちらへ向かって走ってくる足音が近づいてきた。 (新だ。) 遥翔はそれが新のものだとすぐわかった。 先日、新が自分の足音だと確信していたことに異論を唱えたが、それをまさか自分で覆すことになるとは思わず、ふ、と笑う。 「ハル!」 足音の主はやはり新だった。 どこから走ってきたのか、息を切らせ肩で大きく呼吸している。 「どう、したの、受付から、内線きて、静流さんかと思ったら、ハルなんだもん…っ!」 「ちょ、説明するからいったん落ち着け!」 ぜぇはぁしながら喋る新を座らせ、背中をさすってやる。 「おまえ…、ちゃんと飯食ってるか?睡眠取ってるか?」 ようやく呼吸が整ってきた新の顔色の悪さとやつれ方に、眉を顰める。 髪もボサボサだし、白衣もヨレヨレになっていて、何日も剃っていないのか無精髭が生えている。 「……えー、と。」 遥翔の質問にバツが悪そうに視線を逸らした新に、遥翔の中の何かがプツリと音を立てて切れた。 「新。」 「ん?」 「少し時間あるか。」 「あ、うん。急ぎの物はないから少しなら…。」 「来い。」 「え?」 「いいから俺について来い。」 「……………はい。」 地底から響いてくるかのような低音に気圧される。 遥翔がこの声を出す時は怒り度MAX。 新はカタカタと震えながら、遥翔に引き摺られるようにして会社を出た。

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