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懸念

「ハル?どうしたの?顔色悪いよ。」 「え……。」 「確かに顔色悪いな。体調悪いのか?…熱は……ないみたいだけど…。」 新の言葉にコウが遥翔の額に手を当てると、ガタンッ!と音を立て、新がスツールから立ち上がる。 「あ、新……?」 「如月さん、ハルを連れて帰っても良いですか?」 「ちょ、新!何言っ……」 「ええ、お願いします。」 「コウさん!?」 「ごめんな、ハル。最近おまえに甘え過ぎて、オーバーワークになってたことに気づいてやれなかった。今日はそんなに忙しくないし、後のことは大丈夫だから帰ってゆっくり休め。」 「いやでも……!」 確かに連日の忙しさで疲労は溜まっているが、体調が悪いわけではない。 このまま新と帰れば絵里奈と並んで座る新をこれ以上見なくて済むが、新から絵里奈への気持ちを聞かされるのではないかという恐怖心のほうがよっぽど嫌だった。 「オーナー命令だ。」 「………っ!」 遥翔の気持ちを知ってか知らずか、コウにそう言われてしまうと何も言い返せなくなり遥翔は、ぐっと言葉を飲み込む。 「藤川さんごめん、そういう事だから今日はこれで失礼していいかな。僕から誘ったのに申し訳ない。また後で埋め合わせするよ。」 「いえ、私の事はお気になさらず。遥翔さん、またここに来ても良いですか?」 「あ、うん!ごめんね、せっかく来てくれたのに…。」 「いえ、また来る口実が出来ましたから。私こそ、いきなり来てしまってすみませんでした。ゆっくり休んで下さいね。」 そう言って微笑む絵里奈は、人として筋の通せる性格の良い子なのだと改めてわかり、遥翔でさえキュンとしそうになる。 自分がそうなのだから、新が好意を持ってもおかしくないのだと、また胸が痛くなる。 「ホラ遥翔、帰る準備してこい。さて…、藤川様、せっかくご来店下さったのですから、よろしければ遥翔に代わって私からお詫びに一杯ごちそうさせて下さい。このまま帰られては寂しいので、私の話し相手になって下さると嬉しいのですが…。」 「わあ!嬉しいです!」 コウの申し出に、自分も帰ろうとしていた絵里奈が弾んだ声を出し、スツールに座り直す。 「では北條様、藤川様には私のお相手をして頂くことになりましたので、遥翔のことよろしくお願いします。」 「はい、ありがとうございます。」 「お待たせ。」 着替えを済ませ、ビルの裏口から店の前に回ると既に新が遥翔を待ち構えていた。 「早かったね。そんなに急いで着替えなくても良かったのに。」 「おまえのことだから、外で待ってるだろうと思って。」 「だから急いで来てくれたんだ?」 「そりゃ…寒いし…、風邪引かせるわけにいかねぇし。」 「優しいね、ハル。」 ふわりと笑う新に、胸がドキンと跳ねる。 「ホラ…行くぞ。マジで風邪引く。」 「うん。」 自分でも顔が赤くなっているのがわかって、それを見られないように先に歩き出すと、すぐに新が隣に並ぶ。 「ハル……。」 「ん?」 「ごめんね、今日いきなり来ちゃって。」 「や、それはホントに良いんだけどさ。来るとしたら和と一緒か一人でだと思ってたから、まさかの女の子と2人でビックリしたっつーか……、あ、なんかおまえ、職場で有名らしいじゃん!」 「ハル、あの……」 「おまえ背ぇ高いし、メガネしてるけどイケメンだし!昔からモテてたもんなー!」 こんな事が言いたいわけじゃないと頭ではわかっているのに、口が勝手に言葉を吐いていくと同時に変にテンションが上がってしまい、自然と歩く速さも上がっていく。 「ちょっ、待って!ハル!」 「あ、むしろメガネで3割増!的な?高身長イケメンで頭も良くてスタイルも良いとか、ずるくねぇ?」 「ハル、聞いて!」 新が絵里奈の事を話そうとしているのはわかっている。 けど、聞きたくない。 香織が逝ってからまだ半年も経ってないのにもう好きな人が出来たのかと、からかってやることも怒ることも出来る資格なんて自分にはない。 幼馴染みなら、よかったなと喜んでやるべきなんだろうけど、それがきっと一番出来ない。 いつかこんな日が来ると覚悟していたつもりだったけれど、やっぱり、聞きたくない。 「俺ももうちょっと身長あればなー!顔はそこそこだと思うし?新ほどじゃねぇけど、俺だってモテると思うし!なんて、自分で言うなってなー!」 「ハルッ!!」 前に回り込んだ新に両腕を掴まれ、ようやく口と足の動きを止める。 「なん、だよ……。」 真っ直ぐに見つめてくる新の焦茶色の瞳にまで捕まりたくなくて、サッと視線を外し俯く。 「僕の話、ちゃんと聞いて。」 「……なんの、話だよ。」 「…ここじゃ落ち着いて話せないから、僕の部屋で話すよ。…帰ろう。」 なんで、話せないんだよ。 絵里奈を好きになったって話だろ。 じゃなきゃ、昔から恋愛が苦手なおまえから女の子を誘ったりなんてしない。 香織でさえ、新と付き合うのに相当苦労したのだ。 それが自分から動いたからにはそれ相応の気持ちがあるからだ。 そう言いたいのに、言ってしまったらそれが現実になりそうで、遥翔はキツく唇を噛んだ。

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