4 / 15

再会 1

「はぁ……」  月曜日の夕方、通勤の車で渋滞気味の道を運転しながら、俺は何度目かのため息をついた。 「ったく、何であんな痴漢野郎のことばっかり考えてるんだよ……」  金曜日の深夜バスで起こったことは、警察に被害届を出した場合の手続きのわずらわしさや証言する時の恥ずかしさを考えると訴える気にもならないし、なかったことにして忘れようと決めたはずだった。  それなのに、あれから3日経った今でも、あの異常な出来事の一つ一つと、最後にあの男が見せた泣きそうな顔が忘れられない。 「探そうと思えば、探せないことはないんだろうけどな」  俺が住んでいるのは、郊外によくある山を切り開いて作られた新興住宅地だ。  話は少しそれるが、今の家には俺が中学生の頃に家族で引っ越して来たのだが、兄が結婚と同時に東京に転勤になって出て行き、定年退職になった父が外国人観光客向けのビジネスを始めた友人を手伝うために母と一緒に京都に行ってしまったため、今は一戸建てに俺1人が住んでいる状態だ。  で、話を戻すと、俺とあの痴漢男が利用しているバス停はその住宅地の中にあるため、あの男もほぼ間違いなくこの住宅地の住民のはずなのだ。  そしてあいつを見かけるようになったのは1年以上前からだから、おそらくは大学か専門学校の2年生。  確か同じ住宅地の中高の同級生の弟が同じ年だったと思うから、その子に聞けば名前や住んでいる家も調べられないことはないだろう。 「けど、調べてどうするんだって話なんだよ」  あいつを探し出して会って、それでいったいどうすると言うのか。  あいつのことは気にはなるが、だからと言って実際に会ってどうしたいのかは、俺自身にもよくわからない。  そうやって悩んでいるうちに、自宅に着いた。  車2台分のスペースがあるカーポートの真ん中に車を止め、カバンから鍵を出しながら玄関に向かって歩いていると、後ろから足音が聞こえてきた。 「……中村さん」  若い男の声で呼びかけられて振り返ると、そこに立っていたのは俺の頭を悩ませている、あの痴漢野郎だった。

ともだちにシェアしよう!