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告白 1
痴漢男をリビングのL字型のソファーセットに座らせ、俺も斜め向かいの少し離れた席に座る。
客ではないので当然茶など出さない。
どっちみち手首を布ガムテープで拘束しているから、茶を出してもまともに飲めないだろう。
「お前、名前は?」
「橋場 直明 と言います。
あ、カバンの中の財布に学生証と免許証入ってるので、嘘じゃないことを確認してください」
「あー、じゃあそうさせてもらう」
別に男が偽名を名乗っているとも思わなかったが、一応言われた通りに学生証と免許証を見せてもらう。
げ、後輩かよ。
学生証を見た俺は、この男が学部こそ違うものの俺が卒業した大学の2年生だと知って、微妙な気分になる。
県内唯一の国立大学なので、この辺りには同窓生が多いとはいえ、やはり気分のいいものではない。
免許証の方も確認すると、住所はやはりこの新興住宅地のもので、番地からするとうちからは少し離れているようだ。
「逃げたりするつもりはないので、コピーでも写真でも撮ってください」
「じゃあ、一応写真撮らせてもらうか」
男にそう言われ、俺は念のため免許証の写真を撮っておく。
「それで、橋場くんだっけ。
お前、どういうつもりで俺にあんなことしたわけ?」
俺がそう尋ねると、橋場はしばらく視線を泳がせた後、申し訳なさそうな顔でこう答えた。
「すみません。
僕、中村さんのことが好きで……」
「はあ?!」
橋場の言葉に、俺は思わず大声を出す。
「ちょっと待て。
好きって、俺、男だぞ。
いや、それ以前に俺とお前は週に一回バスで乗り合わせるだけで、話したこともないだろ?」
「いえ、あの、それは……」
「何だよ」
言いにくそうにしている橋場に先をうながすと、橋場は困った顔になりながらも先を続けた。
「たぶん中村さんは覚えていないと思うんですが、一度だけ話したことがあるんです。
僕が小学生の時なんですけど、町内会のゴミゼロ運動の日のごみ拾いの時に、集合場所に集めたごみを持って行ったら、中村さんが『お、たくさん拾ったな。よくがんばったな』って言って僕の頭をなでてくれて……」
「え、ちょ、ちょっと待て」
確かに俺は橋場の言うゴミゼロ運動に参加したことはある。
俺が高校生の時、うちが町内会の班で順番に回ってくる班長に当たっていて、その年は町内会の行事で人手がいる時は俺も手伝わされていたのだ。
ゴミゼロ運動は参加した子どもは菓子がもらえるので、それ目当てに結構小学生が参加していた。
俺は年が近いからという理由で、小学生が集めたゴミを回収する係をしていたので、褒めたり頭をなでたりすることもあったかもしれないが、橋場のことは全く覚えていない。
「それって多分俺が高校生の時だから10年以上前だよな。
悪い、さすがに覚えてないや」
「ですよね……」
「え、っていうか、もしかして話したのってそれだけ?」
「そうです。すいません、気持ち悪いですよね」
「いや、気持ち悪いっていうかさ、その時お前小学生だったんだよな?」
「はい。
……初恋だったんです。
中村さんに頭をなでられた時、すごくドキドキして、中村さんの笑顔から目が離せなくて……。
それからも近所で中村さんのこと見かけるたびにドキドキして、中村さんが高校の行き帰りに自転車でうちの前を通ることに気付いてからは、よく自分の部屋の窓から見てました」
橋場の話に、俺は唖然とする。
もし仮に相手が高校生のお姉さんだったら小学生の可愛い初恋話で済むが、実際の相手は別にかっこよくもない汗臭い男子高校生だし、その初恋を俺がおっさんに差し掛かった今まで引きずっていて、痴漢をしてしまうまでにこじらせているというのは正直かなりヤバい。
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