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第2話

ヤろうと言われて男娼に拒否権はない。 ないが、なんとなくヤル気が出ない。 いや、若いしどちらかと言えば好みのタイプだし、ヤれるというなら是非ともお相手したいわけだが、今はなんか違うような気がする。 ここまで気負いすぎている人物を襲っていいものかと思っている自分だ。 けれども、拒否権はない。 隣の寝室に案内して、ベッドを確認すると、トランは悲壮な顔をしながら赤くなるという、器用なことをした。 「……大丈夫? 一度、向こうに戻る?」 彼はふるふると顔を振る。 「いや、その……ここで、リーフみたいな綺麗なひとと、するのか、と、思ったら……」 俯くトラン。 見ると、彼は驚くほど屹立していた。 ……服の上からでも見間違いようがなく、屹立していた。 ……ここで戻るのも可哀相だし、かといって最中に倒れられてそのまま腹上死されても困る。 どうするべきか思考し、僕は彼の前に膝を折った。 「えっ……ハッ!」 戸惑う彼を後目に、下服をずらし、出てきたものを口に含む。 「は……っ……いや、待って! それは……!」 舌で刺激を送りながら、ゆっくりと進める。 彼は僕の肩を押して、離そうとした。 「だめ……ッ ダメだそれは……ッ! こんなことさせたいんじゃないんだ……っ」 そんなことを言いながら、かなり強い力で肩を押しているものの、目は気持ち良さを訴えているため続行。 喉の奥まで咥えて上目使いに見ると、悲しそうにふるふると顔を振ったが、やはりその目は正直だった。 ゆっくり前後する。 「っ……はッ! ダメ……だめだ……っ……お願いだ、やめてくれ……ッ!」 瞳を潤ませて懇願してくるトラン。しかし、肩を押す力は先程より緩み、どことなくトロんとした表情は間違いなく感じている。 咥内で感じるソレは、射精の徴候があるし、一度出せば少しは落ちつくだろう。 口で受ける心積りをしていると、 「……ッ! はぁッ、ダメだ! もう我慢できない!!」 僕はベッドに押し倒された。 ……僕が、ベッドに、押し倒された。 ……。 ちょっと待って。 僕はタチもネコもできる訳だけど、彼は多分ネコの素質が出てたよね? 一度出させて、それからベッドに誘導して優しくアレコレとレクチャーするつもりだった訳だけど、これ何があった。 僕の頭は疑問が詰まり、驚きの顔のまま彼を見たが、彼はそのまま僕に被さり、激しく唇を合わせた。 「……っ……ふん……っ」 唇は僅かに震えていて、合わせるだけの接吻に慣れは見えなかった。 意外とここに差が出るものだ。 どんなに繕おうとしても、店に仕込まれている人間にはこれができない。 彼は、素人だ。 僕は確信したが、ここからがさらに予想外だった。 必死に目をつぶり、唇同士を合わせていた彼だったが、うっすらと目を開けると、僕の唇に舌を這わせてきた。 「……!!」 あまりに拙い動きだったが、それが逆に新鮮で、僕はいつもになく感じてしまったのだ。 トランの手は、腕を掴んでいたが、ゆっくりと移動させ、おそるおそる胸を撫ではじめた。 と、同時に舌を内に進める。 「ん……はっ……」 自分の息が荒くなっていく。 こんなことはいつ以来のことか。 客をとりはじめてからは、それぞれが望むような反応を見せるようにしていたし、それを越えられるのも、2年までのことだった。 それが今、初めての時のように震える。 拙いながらも、リーフの性感をどんどん呼び覚ましていく指先に戦慄した。 「っぁ……待っ……て」 「すまない、止まらないんだ」 完全に欲情した目を向けられて、はち切れそうになっている下半身を押し付けられれば否やは言えない。 せめて息を整えたかったが無理だった。 今日の客がタチだったのがせめてもの救いか。 探るようにトランの手が自分の下半身に向かうのを止めるすべはなかった。 「これが……リーフの……。触るね」 そっと握られ、喘ぐ。 トランの口唇が、嬉しそうにつり上がるのが見えた。 「気持ちいい? 下手だと思うけど、がんばるね」 大事な宝物のように触られて、もどかしさに昂っていった。 「あっあっ……トランんッ!」 「大丈夫?痛くない?」 いたわる言葉に、我慢ができなかった。 「も……もっと強くシて」 「……ッッ!」 トランの手が、激しく動きだした。 強く上下しながら、裏筋を刺激する。 いつものように感じているふりをする必要はない。ただ必死に彼を感じているだけでよかった。 それだけで気持ちよくなれる。そんなことはいったい何年ぶりだろう。 トランのなすがままに任せて、僕はそのまま果てた。 「気持ちよかった?リーフ」 お互い息が荒い。 「ん……ごめん、先にイっちゃった」 「ううん、リーフの気持ちよさそうな顔を見れて嬉しかった」 けなげに笑う姿にキュンとする。 頬に優しくキスをした。 「ごめん……リーフの中に入りたい」 切羽詰まったようにトランが囁く。 トランの怒張は、痛いぐらい張りつめて、我慢汁が先から零れ落ちていた。 「どうすればいいか、教えて」 そういえば、男性とどころか、経験さえも初めてなのだったか。 ベッド脇のチェストの引き出しを探って、取り出した小瓶の液体を後孔に塗ってもらえるよう頼む。 「ちゃんと汚くないように処置してあるから、大丈夫だよ」 「リーフが汚いなんて思わないよ」 トランがたっぷり手にとった粘液を塗ってくれる。 それを嬉しく思いながら、また昇まってゆく自分に戸惑っていた。 いつもなら、いろんなテを使って高めていくところだ。そもそも、客の趣味を確かめる前に客より先にイってしまうことすらない。 「どれぐらい塗ればいい?」 「ぜんぶ……」 変に甘い声が出た。 トランはリーフの言う通りに一心で塗りほぐしてくれる。 他の客なら、笑いながら辱しめの言葉を投げ掛けられる場面だ。 今はそう考える方が冷める。ただなにも考えずに、素人丸出しの責めに身体を委ねるだけの方が万倍も感じた。 と、 「あ……あぁんッ!」 思わず叫ぶような喘ぎ声が出た。 「えっ、リーフ大丈夫?!」 慌てて後孔から指を抜き、僕を心配してくれるトラン。 僕はゆっくり首を振る。 「ソコ……気持ちいいの……」 「え……」 トランはおそるおそるというように、指を挿し入れてきた。 「こ……ここ?」 「ぁふ……うん、うん……イイよぉ……っ」 僕のイイところを、擦る指に腰が揺れる。 「……っっ! リーフッ!」 がばっと抱きついてきたトランに、耳元で囁かれた。 「まだ、全部塗れてないけど、入れていい? 俺ので、リーフのイイところを擦ってあげる」 ……そのセリフだけで、濡れる。 断るわけがなかった。 「あぁ……リーフの中……熱い……」 「ふああ……と…トランが…はいって……ッッ」 挿入されて、それが彼ので、と思うだけで感じてしまい、イきそうになってしまった。ヤバい。 指名一位の男娼としても、これからも他の男たちと寝る立場としても、単に男としても、ヤバい。 必死に気が遠くなりそうな頭と戦いながら、彼の熱く巨大なものを受け入れていく。 ああ、気持ちいい……。 ふわふわする心持ちの中で、自分の頭だけにすっかり気を逸らされていた。 曰く、 「ここだったよね、リーフのイイところ」 「ふわああァァアアッッ!!」 あてられて一瞬、気を手放した。 そうだ、彼はそういえば、自分ので擦りたいから入れさせてと言ったんだっけ。 ヤバい。素人ヤバい。 復帰もすぐだったのが良かったのか、いや、悪かったのか……? 目覚めると、彼は僕に覆い被さるようにしながら、何か呟いていた。 「……っ、ヤバい。滅茶苦茶気持ちいい……。セックスってこんななのか? 入れただけで出そうなんだけど、動かすとかどうやって……」 欲望に完全に囚われた、獣の目をしていた。 ゾクッとする。 「あ……ああぁ……絞めないでくれ……」 思わずナカを締めてしまっていたらしい。 なんとか弛めようとしたのだが、トランの欲に濡れた瞳を見ていると、躰が痺れていうことを聞かない。 「ご……ごめ……感じすぎて、いうこと聞かない……いつもなら、ちゃんとできるのに……」 そういったとたん、 彼から表情が消えた。 「あ、あっ、あぁっ、あっ、あぁッ! だ……やめ、あっ!」 彼が、動きはじめて、頭のナカが、まっしろになった。 「いつもなら、とか、煽るの何なんだよ。リーフみたいな綺麗で可愛いヒト、独り占め出来るわけがない、なんてわかってるけど、でも、今だけは、とか思っちゃうだろ……ッ!」 耳元で何か、酷く甘いことを囁かれているような気もするが、僕は彼を受け止めるだけで必死で、言葉を認識することさえも出来ずにいた。 「はッ、…あっ、あぅぅ…はぁっ…ま…まって……ま……」 「待てない」 「…あっ、あぅぅ…ひゃっ! や…だ、やめ…っ! ぁ…あは、ぁあ、あぁ…らめ…」 もはや自分が何を言っているのかさえわからない。 気持ち良さで頭の中がいっぱいになって、感じる以外の何もできなくなって。 「可愛い……可愛いリーフ」 「……っ…か…は、っ…ひぐぅあ…あっあぁ」 「今だけは、俺だけのモノになって……」 「…っ! あっ…もっとぉ……きもひ、ぃッ、ふか、あ゛ぁッふかいィッ! も、らめ…ッす、きッ…すき、すきぃッ! あッ…イ…くぅううッッ!!」 わけのわからないまま、イかされナカに出され、無茶苦茶に掻き回され、翻弄されまくったまま。 今度こそ、気を失った。 数時間前の自分に言ってやりたい。 素人甘く見るな。

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