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ねこの気持ち
◇
どしゃ降りの雨の中、ずぶ濡れになった和彦が捨て猫を拾ってきた。
「このアパートはペット禁止だぞ!それに貧乏所帯のうちに猫を飼う余裕があるかっ。元の場所に戻して来い!」
「外はどしゃ降りなんだよ?そんなとこに置いといたら死んじゃうよ!お願いたっちゃん。ちゃんと貰い手探すから暫くの間ここに置いてあげてよ」
雨なのか涙なのかわからないほど、グチャグヂャの顔で訴えてくる和彦の腕の中でにぃにぃと泣く仔猫。
「…とにかく風呂入れ。猫もな」
「たっちゃん!ありがとうっ!!」
「抱きつくなっ。猫が潰れる!」
和彦を風呂に押し込んで、着替えとバスタオルを用意する。こうして和彦が捨て猫を拾ってくるのは何度目だろう。
昔から捨て猫や捨て犬を拾って来ては、さっきと同じセリフでの泣き落とし攻撃。お互いの実家も小さなアパートでペットなんて飼えないから、和彦が犬や猫を拾ってくるたびに二人で貰い手探しに駆け回った。そして懲りない和彦のせいで、大学生になった今もこうして度々同じ羽目になっている。
お互いの大学の友人やその知り合い、バイト先の人などあらゆるツテを頼りまくり、やっと引き取り手が決まったのは、和彦が子猫を拾って来てから一週間後のことだった。
一緒に過ごすうちに情が移るのは当たり前のことで、俺達の元から去っていく子達を見送るたびに和彦は辛い思いをしてきた。なのにこの馬鹿はしょうこりもなく同じ事を繰り返す。
何度も泣く羽目になっても和彦は手を差し伸べる。そんな馬鹿な和彦だから、俺は間違いなく大切にしてくれる貰い手を探す。
子猫を渡した帰り道、泣きじゃくる和彦の俺より上にある頭を撫でながら話しかけた。
「…あの子は必ず幸せに暮らせるからもう泣くな」
「うん…。たっちゃん、いつもありがとうね」
ぐずぐずと鼻を鳴らしながら礼を言う和彦に釘をさす。
「もう拾ってくるなよ?」
「………。」
「返事は?」
「…ううう。…は…いぃ…たぁい〜」
黙ったままの和彦の耳を、引っ張って聞けば奴は渋々返事をした。…まぁ、約束させたって無駄なことはわかってるんだがな。
そう心の中で一人ごちながら、二人肩を並べ俺達は家路に着いた。
◆
一週間の短い間だけど、家族だった子猫を渡した帰り道。隣を歩くたっちゃんにお礼を言った。子供の頃から俺が犬や猫を拾って来るたびに、たっちゃんは同じように貰い手を探して奔走してくれた。
俺が安心出来るように子猫たちにとって最高の居場所を探して来てくれる。そんなたっちゃんに俺は何度も惚れ直す。
「たっちゃん。俺うんっと稼いで大きな家を建てるよ。それで猫だって犬だっていっぱいいっぱい飼ってあげるんだ」
「ああ、頑張れ」
「そしたらさ。たっちゃんも一緒に猫達の世話してくれる?」
「ああ?…ったく、仕方ねえなぁ」
「えっ?いいの!?」
「それじゃあ、俺も頑張って稼いで家建てねぇとな。また隣同士で家族ぐるみの付き合いもいいな」
「…………ぅん。そうだね…。」
「よし、じゃあ買い物して帰るか」
「うん。たっちゃん」
大きな家を建てて猫と犬と暮らすのは俺の夢だけど、そこには当然たっちゃんがいなきゃ俺の夢は完成しない。そんなつもりで話した俺の告白は、今回もあっさりとスルーされてしまった。
だけど、世話はしてくれるって約束は取り付けたから、犬と猫と俺の世話もして貰えばいいんだもんね。
どうかいつまでも俺と二人で並んで歩いて行ってね。隣を歩くたっちゃんに俺は心の中でそっと囁いた。
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浅倉樹 …平凡で口が悪いが人一倍情が厚く面倒見が良い。子供の頃から和彦の為ならごく当たり前に労を惜しまないが、無自覚。
南和彦 …涙もろいお人好しイケメン。何かと面倒を掛けては、樹に世話を焼いて貰える事が幸せ。8年間告白めいた事をずっと言い続けているが、無自覚な樹に毎回スルーされている。
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無自覚に和彦を甘やかす樹とそんな樹にベタ惚れな和彦。今回も和彦の告白はまったく伝わらず仕舞いでしたが、樹の傍にいられる日常をほんわり楽しむ日々です。
因みにネコになるのは樹の予定。頑張れ和彦!
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