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クリスマスの日
今日はクリスマス。
ボクのお家は商店街の小さなお花屋さんでお隣にはケンお兄ちゃんのケーキ屋さんがある。
美味しいケーキとイケメンの店員さん達が大人気で、いつも忙しいお兄ちゃんのお店はクリスマスの頃はもっともっとスッゴく忙しくなる。そしてボクのお家もいつもよりちょっと忙しい。
特別な日の贈り物にお花を買いに来てくれるお客さんと、お兄ちゃんのお店に飾られたお母さんが作ったクリスマス用のアレンジメントフラワーを見たお客さんが注文をしてくれるからなの。
『せっかくのクリスマス、ケーキと一緒にお花をいかがですか?』
お兄ちゃんが優しい笑顔でそう言うとお姉さん達がみんなお花を買いに来てくれるんだ。お兄ちゃんって凄いよね!お母さんも健一君がイケメンなおかげねって喜んでる。だからボクも頑張ってお手伝いするんだ。
花束が出来上がるまでの間お兄ちゃんのカフェで待ってくれているお客さんにお花を届けるのがボクのお仕事。出来上がった花束を崩れないようにしんちょうに抱えてお隣まで走るボクの胸元でシャランシャランと鈴の音がする。
お兄ちゃんがプレゼントしてくれたトナカイさんの着ぐるみのお洋服には、胸元にふわふわのファーと可愛い赤いリボンと鈴がついていて、フードにはトナカイさんのお顔とお耳と角まであってお尻にはちゃんとシッポまで生えてるの。
ふかふかでとってもあったかいこのお洋服は、配達で寒いだろうからってお兄ちゃんがわざわざネットで探してくれたんだよっ。ほんとにケンお兄ちゃんは優しいなぁ!
***
イブとクリスマス、目が回りそうに忙しい2日間だったけどお花がたくさん売れてお店はいつもより早じまい。ボクのお家は毎年イブじゃなくてお仕事が落ち着いたクリスマスの夜に、お母さんの作ったご馳走とお兄ちゃんのお店のケーキでお祝いをするんだ。
今日最後のお手伝いでボクはお兄ちゃんのケーキを受け取りにきた。お兄ちゃんのお店も全部のケーキが売り切れたみたいでもうお店を閉めてる。ギャルソンの林さんと佐久間さん、ショコラティエの西田さんもボクにお疲れさまって言って先に帰っちゃった。
みんなクリスマスだから早く帰って一緒に過ごしたい人がいるんだね。ボクもお父さんとお母さんが待ってるから早くお家に帰らなくちゃ。
でも…、お兄ちゃんは誰とクリスマスを過ごすのかなぁ。お兄ちゃん家は、お父さんもお母さんもしんじゃってお家にはお兄ちゃんしかいない。…寂しくないのかなぁ。
「ちーちゃんお疲れさま。いっぱいお手伝いして偉かったね」
ボンヤリと考え事をしていたボクの頭を大きな手が優しく撫でた。
「ケンお兄ちゃんお片付け終わったの?」
「うん、あとはちーちゃんにあげるケーキを仕上げたら終わりだよ」
「ケーキの仕上げ!」
ボクの声が弾む。お兄ちゃんがボクのお家のクリスマスケーキのデコレーショをやらせてくれるって約束してくれたから、ボクはそれをとっても楽しみにしてたんだ。
お兄ちゃんについて入った厨房の作業台の上には、綺麗にデコレーションされたクリスマスケーキがあった。
…あれ?もうデコレーション綺麗に出来てる。
「お兄ちゃん…」
「ほら、ちーちゃんその恰好だと動き難いかなと思ってね。デコレーションは済ませちゃったんだ」
…あ、…トナカイさんの着ぐるみ…。確かに着ぐるみはあったかいけど作業をするのは動き難いし汚しちゃうかも知れないけど…。
でもそれなら着替えてからお手伝いするのに…。お兄ちゃんと一緒にケーキを仕上げるのを楽しみにしていたボクはガッカリしてしまった。
「でも最後の仕上げはまだなんだ。ちーちゃんやってくれる?」
え?でもケーキは綺麗に飾り付けてあって、もう手を加える必要はないみたいだけど…。
戸惑うボクの手のひらにお兄ちゃんが小さなマジパンのお人形をのせた。
「これ…ボク?」
男の子の姿をしたマジパンのお人形はトナカイの恰好をしている。
「あたり。それからこれも、はい」
そう言ってまた手のひらにはふたつのマジパンのお人形がのせられた。手のひらのうえのお人形は男の人と女の人の姿をしていてエプロンを着けてお花を持っている。これお父さんとお母さんだ!
「これをのせたら、ちーちゃん家のスペシャルクリスマスケーキの出来上がりだよ」
「うわぁっ!ありがとうケンお兄ちゃん!」
ボクのおうちのためだけのお兄ちゃんのケーキ!こんなのどこを探したってない。世界でひとつだけのケーキだ!
「さあ、早く仕上げてお家に帰らなきゃ。千尋さん達がちーちゃんの事を待ってるよ」
そう言って微笑むお兄ちゃんは誰とクリスマスのお祝いをするのかなあ。
「…お兄ちゃんはどうするの?」
お兄ちゃんにも林さんたちみたいに一緒にお祝いしたい人がいるのかな…。
「そうだね、特に予定もないから、知り合いのお店にでも行こうかと思ってるよ」
「…じゃあ!じゃあお兄ちゃんも一緒にボクんちでお祝いしよ?お母さんご馳走いっぱい作るって張り切ってたし、お父さんもお手伝いしてたからきっと食べきれないくらいお料理あるし、お兄ちゃんが来てくれたらお父さんとお母さんもきっと喜ぶし、それからそれから…」
それから、お兄ちゃんが一緒のクリスマスならボクも…っ。
「…ちーちゃんも僕がいた方が嬉しい?」
「…う、うんっ!」
ボクが口に出すまえにお兄ちゃんがボクの言いたかったことを言ってくれたからボクは思いっきりうなづいた。
「…ふふっ、じゃあお言葉に甘えてお邪魔しちゃおうかな」
「おっ、お邪魔なんかじゃないよっ?お兄ちゃんと一緒にクリスマスのお祝いが出来るなんてスッゴくスッゴく嬉しい!」
「僕も嬉しいよ。ちーちゃん」
ボクの大好きな優しい笑顔でお兄ちゃんはボクの言葉にそう返してくれた。
それからボクはお兄ちゃんと一緒にもうひとつマジパンのお人形を作ってスペシャルクリスマスケーキを完成させた。
ケーキの上にはお父さんとお母さんのお人形。それから仲良くお手々をつないだトナカイのボクとサンタクロースのお兄ちゃんのお人形がのっている、世界でひとつだけのクリスマスケーキ。
そのケーキを腕に抱えてボクとお兄ちゃんは、ケーキとおんなじようにお手々をつないでふたりでお家に向かった。
*****
ハロウィンの日とポッキーの日にちーちゃんにkissしたお兄ちゃんなので今回はベタにちーちゃんのお鼻の生クリームをペロリとかにしようかと思ってたけど、何となく入れられませんでした。
トナカイの着ぐるみは勿論ちーちゃんの可愛い姿を見たくて堪らない健一の煩悩のプレゼントです。
次のバレンタインでこそはチョコをペロリかな(*´∀`*)ノ
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