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事の終わり
目を開けると、辺りは暗く……俺の部屋ではない。
団長達の詰め所で……団長の腕の中。
ここは現実……?
呪いの世界……?
どっちだ……ドキドキしながら団長の目を見つめた。
「おかえり……良く頑張ったね、リム」
団長に笑顔で抱きしめられた……。
「ネヴィルは?呪いは……?」
「ネヴィルは牢に入っている。呪いはリムが目を覚ました瞬間、呪い返しが発動して術者に返ったよ」
終わったのか………?
終わった………。
終わったんだ……!!
「団長! 団長!! 団長っ!!!」
俺も団長にしがみつき……顔をすりつけ、団長の温もりを感じた。
団長も優しく頭を撫でてくれて……軽いキスから、存在を確かめあう様に深く唇を重ねあわせた。
「団長……俺……団長に会いたいって……それだけ考えて……」
「うん、頑張ったな………」
「団長が待ってるって……だから……ネヴィルを殺して……皆も殺そうと………」
「大丈夫……呪いで作り上げられた世界は現実ではないよ」
「皆を殺した……団長の事も……俺が殺して……」
「俺は生きてる。リムは誰も傷つけてない」
俺がとりとめもなくこぼす言葉に団長は一つ一つ、答えてくれた。
優しく………
優しく………背中を撫でてくれる。
「俺がずっと側にいるよ……お前とずっと一緒だ」
指を絡めて握り合う。
呪いを乗り越えた先に夢見ていたもの……。
幻でも、慰めの嘘でも良い……。
団長……ありがとうございます。
――――――――――――――――
明るい朝日が顔を照らし、小鳥達の囀ずりも聞こえる。
…………朝か………。
…………………朝!?
ガバッと起き上がり周囲を見回す。
俺の部屋……。
恐る恐るニュースボックスを立ち上げると、王国内のニュースが流れた。
『風の月17日、本日の天気は晴れ。昨日王都に現れた魔獣ゴルゾーラカウは、魔導士団により駆除されました。駆除されたゴルゾーラカウは本日にも解体され、午後から素材の販売を行いますのでふるってご参加下さい。次のニュースです……』
17日……。
本当に終わったんだ。
改めて実感する。
新しい日が来るって良いなぁ……。
しみじみと涙が溢れた。
「ふふ……呪いが解けたと信じてなかったのか?」
キッチンから急に姿を現したのは
「だっ!団長!!何でここに!?」
「昨日、寝落ちしたお前を誰が運んだと思っているんだ?朝食を作ったから顔を洗ってこい」
呆然とする俺の前で団長が朝食を並べていく。
「どうした?早く準備しないと遅刻するぞ?」
「いえ……夢みたいで……また新しい呪いかと……」
団長はクスリと笑うと、
「こんな幸せな呪いならずっと囚われていても良いなぁ……でも現実だ」
と、軽くキスをして俺を洗面所へ追いやった。
時間をずらして、こっそり登城しようとしていた俺の手を握って団長が楽しそうに笑う。
「リム、一緒に行こうな」
「団長……ただでさえ噂になってるのに……」
一緒に家から登城したら、ますます噂に火がつく。
「ん?お前が俺を体で陥落したって噂か?あながち間違って無いんだから、放っておいて良いんじゃないか?そんな事より団長じゃなくて名前で呼んでくれないか?」
「間違ってるでしょう……俺、昨日まで団長とそんな事……したこと無い……のに……」
自分で言って思い出した。
そう……そうだよ。
団長と……したのは現実だったんだよね……。
今更ながら大それた事をしてしまったと思う。
「まぁ、噂の火種は、お前が入団試験に全科目で落第点だったのを俺が無理に合格させたからだな」
あ……やっぱり俺、落第点だったんだ。
団長の手が頬を撫でる。
「学生時代からずっと探してた……リムを見たとき、すぐにこの子だってわかったよ?だから何としても黒の魔導士団に入って貰わなきゃと必死だったんだよ」
俺を探してた?
「あの……俺と団長……接点無かったですよね……何で?」
記憶を呼び起こしても、学生時代に雲の上の存在だった団長との接点が出てこない。
「う~ん……内緒。リムが思い出したらね」
団長は唇に手を当てて笑った。
―――――――――――――――――――
団長の鞄からローブを勝手に盗んだ事。
ローブに呪いが掛かっている事を知りながら、故意に人前に晒した事。
俺への恐喝と……。
「呪いが強力な事を含めても20年の懲役かな……本当は殺してやりたいけどな」
にっこり微笑まれ、笑うとこかどうか迷う。
サイラス隊長は団長の言葉通り投獄された。
監獄に入れられた者がどういう生活を送るのかは知らないけれど……出てこれるのなら……もう出世欲に囚われぬ様に生きて欲しい。
隊長の席は、ジョイ先輩が後任している。
実力も人当たりも適任だと思う……女性関係を覗けば……。
ネヴィルのその後は、団長に何度聞いてもはぐらかされて……俺に気を使ってくれているのだろう。
俺が呪いに囚われていた間に使った幾つかの呪い返しが、呪いから抜け出したと同時に発動したと聞いている。
呪い返しは通常で3倍返し……それに加え、幾つかの性質の異なる呪い返しの魔法を使ったから……目覚める事はないかもしれない……。
ネヴィルも……初めはただ純粋に団長の事が好きで、何処かで歯車が狂ったのか、それとも初めからああいう人だったのか……。
それはわからないけれど……長らく団長へ片思いを拗らせていた俺としては他人事では無い……俺もそうなっていたのかも……。
俺、弱くて良かった。
そんな弱い俺だけど、なぜか団長の隣に座っている。
「……あの……団長補佐って……何の仕事をしたら良いのでしょうか?」
団長の席の前、俺と向かい合わせに座るヴァンス副団長に声をかけると、
「リムがいるだけで団長の仕事の進みが早いから、そこに座ってくれれば良い。暇ならそこの書棚から好きな魔術書を持ってきて読んでればいいさ」
「いえ……流石に給金を頂いている身でそれは……」
「じゃあ、このパズルを解いててくれ。それが仕事だ」
ヴァンス副団長に渡された小さい箱の様な物。
「?……これが?パズルですか?」
ただの四角いブロック……だよな。
どの角度から見てもパズルには見えない。
団長がひょいっと俺の手からブロックを取ると、
「これはね、こうして手に乗せて……箱に書き込まれた術式を読み解いて……式の中に紛れ込んだトラップを解除していけば……ほら」
カシャン、カシャンとブロックが形を変えていき……虎の形に変化した。
「解除する方法によって12の形に変化するんだよ。リムはいくつ出来るかな?」
手の上に返されると、またカシャカシャとブロックの形に戻った。
仕事だと渡されたので、必死にブロックに意識を集中させる。
頭の中に魔法文字が流れ込んで来る。
………綺麗な式だなぁ……トラップ……トラップ……これかな?
異質な文字を書き換えていくと………ごっそり魔力を持っていかれた。
手の上でブロックが変化する。
「はぁ………出来ました……」
魔力の消化量が半端なく、ぐったりと机に突っ伏した。
「さすが……早いな。これは?馬か?初めてみたな……」
「はぁぁ……団長の事、疑ってましたが……本当だったんですねぇ……これなら団長補佐として充分……いやむしろ団長より上ですよね……」
副団長は感嘆の息を吐く。
詰め所にいた隊長達も集まってきてなんだかんだと話している。
「俺の見る目は本物だろ?だから正々堂々、補佐として仕事中も一緒にいれるだろ」
団長はパズルを副団長に渡すと俺の耳元へ囁いた。
「リム、ずっと側にいような?」
副団長に言った事の意味はよくわからないけど、団長が嬉しそうに笑うから……。
ずっと側に……と言う言葉が嬉しくて、団長の耳にそっと返事を返した……。
「ずっと一緒です。カイル」
……貴方の言葉でいつでも笑顔になれる。
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