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【後日の話】 カイルの欲しいもの

俺はカイル・ゾグラス。 学校の成績は常にトップ。 将来、王宮の要人を多く輩出する学園の生徒会長。 魔力は学園一……いや、王国一と言われている。 未来は常に明るい。 非公式な親衛隊達のなかで揉め事が起こったり、親衛隊内で呪い騒ぎがあり、自殺者が出たりもしたが、あくまで非公式の親衛隊同士のイザコザ。 俺の未来には何の影響も無かった。 どんな夢でも、どんな物でも俺に手に入れられない物はない。 そう思っていた…あの日迄は……。 学校の演習場の脇道を通っていた時、いきなり炎の玉に襲われた。 急いでガードしたが、手のひらを少し焦がした。 ひりひりと痛む手のひら。 俺が、あの距離まで攻撃に気づかないなんて……。 咄嗟とはいえ、俺がガードしきれないなんて……。 この学校にそんな力を持った生徒がいたなんて……。 ライバルに成りうる人物の出現に、高まる胸の鼓動。 高揚感。 心が踊った。 退屈だった毎日に落とされた一つの投石。 演習場の中を探したが、誰も見つけられなかった。 次の日から、魔法を放った者を必死に探すが見つからない。 手掛かりは俺の胸を焦がすような魔力のみ……。 副会長のメイナードにも無理だ、諦めろと言われた。 俺は……探し求めている内に、姿の見えぬ相手に恋をした。 恋い焦がれて、3年。 魔導士団に入団するなり班長、隊長、副団長、団長とトントン拍子に位が上がった。 当然だ。 魔導士団の中にも俺の魔力を越す者はいない。 越せるとしたら……あの者だけ。 あれだけの魔力だ。 魔導士団に入るだろうと、毎年新入団員のチェックは怠らない。 見つけた……。 彼の放った魔法は全て的を大きく外れ、もちろん落第。 誰も気付かないのか? 彼の魔力の質に……。 良く練り込まれた、上質の魔法。 ごくりと唾を飲み込んだ。 彼が欲しい……欲しい………。 リム・アゼリア 絶対逃がさない………。 ――――――――――――――― 3日後の遠征の配置を割り当てながら、ふと顔をあげると、俺の一存で団長補佐になったリムの真剣な横顔が目に入る。 本当は少しずつ昇格させて俺の側へ置こうと思っていたが、呪いの事があり目を離したくない。 俺を真っ直ぐに想ってくれるリムの気持ちもわかったので、徐々に距離を縮める必要もなくなった。 急遽作った役職。 急だったので何の仕事をさせるか考えていなかった。 取り敢えずリムの隠れた力を呼び起こそうと、パズルを与えた。 リムは難しい顔でパズルに向かっている。 俺でもまだ半分しか解けていないのに、リムはもう9つの変化を見せてくれた。 あのパズルは伝説となった、かつての大魔導士が作った物で、術式を読み解く力と魔力のコントロールを養うのにちょうど良い。 とはいえ、普通の魔導士では一番初級の鼠を作るのでやっとだろうが……。 ……あんなものを遊びで作れる、かつての大魔導士の力には敬服する。 俺が常に側にいるので表立ってリムに文句を言うやつはいないが……そろそろリムの力を団員達にも分かりやすく見せつけておかないと不満が爆発しそうだな……。 3日後に迫った魔獣メタルーンウルフの群れの討伐。 こいつらはその体毛が金属の様に固く、骨の折れる相手。 一匹なら俺一人でも何とかなるが、群れとなると面倒だ。 リムのお披露目にはちょうど良いなぁ。 コレが成功したらリムを悪く言う奴は居なくなるだろう。 そうしたらリムの家も役職用の宿舎に移動させて……いや、いっそのこと二人で住んでしまおうかな……。 毎日送り迎えに行っているが、夜も一緒に居たい。 リムは周りの目を気にして部屋へ上がらせてくれないから、実はあれ以来ご無沙汰である。 ちゃんとお付き合いもしてるんだし良いじゃないかと思うんだけどなぁ……。 呪いを乗り越えて来てくれたリムだが、呪いの世界でのトラウマもあるだろうし、リムが俺を求めてくれるまでは無理強いをしたくない。 呪いの世界での出来事は聞かないようにしているしリムも話を聞いて欲しいとは言わないので詳しく何があったのかは知らない。 リムが戻ってくる間、眠るリムを抱き締めながら……リムなら絶対戻って来ると信じていた……が、甘いリムの嬌声を聞かされ続けるのは苦痛だった。 切ない艶やかな声で俺の名前を呼び続けていたのに、現実では全く俺を求めてくれない。 呪いの世界の自分に嫉妬する。 一緒に暮らしたら……お許しをくれるかも? リムは俺の視線に気付かずにパズルと向き合い続けている。 副団長の俺へ向けられた、冷めた視線は気にしないでおく。 ――――――――――――――――――――――――― 遠征当日。 自分もメンバーに入っていることに動転するリムを引きずって、馬に乗れないと言うので俺の前に乗せる。役得だ。 リムは周りの視線を気にして小さくなっている。 気にしなくて良いのに……そんな視線も明後日迄だよ。 同じテントで寝るが……手は出せない。 リムの可愛い声を俺以外に聞かせたくないからな。 道中何事もなく、目的地に着いた。 崖の下に、話に聞いていた通りメタルーンウルフが30頭程。 さて……リムの力のお披露目会を始めようか。 団員を待機させると、怯えるリムの手を引いて崖の淵に立った。 リムの魔法で助けてね、と頼むと俺はメタルーンウルフの群れの中に飛び降りた。 メタルーンウルフ達が一斉に俺に向け臨戦体勢に入る。 落ちながらリムを見つめた。 リムが魔法を使うのを躊躇っているのは、自分の魔力の大きさに無意識に気付いているから……被害を考えて押さえ込んでしまう。 極限状態に入ればその箍も外れるだろう。 自分が群れの中に飛び込んだのは、リムを危険な目に会わせたくないのと……間近でリムの魔法を受けたかったから。 あの身を焦がすような魔力をもう一度、直に感じたい。 俺の為に自分の枷を解き放ってくれ……リム。 「雷電っ!!」 リムの声が響いた。 無数の稲妻が天と地を繋ぐ柱となって走る。 頬を掠めたピリピリと肌を痺れさせる様な魔力に陶酔した。 これだ……この魔力だ。 長い間、恋い焦がれた感覚が体を震わせる。 起こした風に乗り、メタルーンウルフの屍が転がる地面に足を降ろした。 まだ心が興奮して足が震えている。 「団長っ!!」 上を見上げ、降ってきた体を受け止める。 「何でこんな無茶するんですか!!」 「一番効率の良い方法を選んだだけだ。ほら、もう片付いた」 よっぽど、俺が死ぬのが怖かったのかガタガタ震える体を抱き締めると、人目も気にせずにリムから唇を重ねてきた。 「俺が魔法を使えなかったらどうするつもりだったんですか!!」 「助けてくれたじゃないか」 「結果論でしょう!!団長に何かあったら、俺…!!」 あ、泣きそう。 慌ててマントでリムを隠す。 「ごめん、ごめん。もうしないよ。さぁメタルーンウルフの素材を持って帰ろうか」 一瞬の出来事に固まる団員達に指示を出して、解体作業を開始させた。 その様子を見守っていると、副団長が側へ来て耳打ちする。 「妙な編成だと思ったら……こういうことですか……おしゃべり好きな奴らばかり集めて……」 「リムの魔法の披露には最適な観客だろ?」 副団長はリムを同情の眼差しで見た。 「……俺があなたの好みでなくて良かったです」 「それでもリムは、俺が好きだってさ」 解体作業に見入っているリムの横に立ち腰を抱いた。 「さぁ……俺達の家へ帰ろうか?」 「俺達の家?」 王都に着く頃には業者に頼んでおいた引っ越しも、すでに済んでいる頃だろう。 欲しいものを手に入れたんだ。 俺の未来は常に明るい。

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