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第11話 共有

そして、週末。 「優介さん!」 「あ、仁……」 映画館の入り口で待ち合わせをしていたのだが、仁は背が高いうえに顔が良くて目立つので、ちらほら周りの女性達から熱視線を受けながらも堂々と立っていた。 「ま、待った?」 「ううん、俺もさっき来たところだから」 定型文のような会話を交わしつつ、安藤は仁の隣に並んだのだが、その途端少し周りがザワついた気がした。 彼を待たせているのはいったいどれだけ綺麗な女性なのだろうかと登場を期待されていたようだが、現れたのは男の安藤だったので、周囲はホッとしているような、または期待を裏切られてがっかりしているような――……なんとなくそんな空気を感じて、安藤は少しだけ申し訳ない気持ちになった。 「席は任せるって言われたから、チケット先に二人分買っといたよ。なので優介さんはジュースとポップコーンを買ってください!それと俺、キャラメルがいいんだけど優介さんが塩がいいなら塩味でいいよ」 「俺もキャラメル派だよ」 「やった!」 好みが同じだったのが嬉しいのか、仁は小さくガッツポーズをした。 昨日ネットで席を予約しておくと言われたので任せると言ったのだが、まさかチケットまで買ってくれているとは思わなかった。それに…… 「別に好みが違ってても、ポップコーンくらい一人分ずつ買うのに」 「分かってないなー、優介さん」 「?なにが?」 「俺はひとつのポップコーンを二人で共有したいの!……恋人だからね」 最後のところは耳元でボソッと囁かれるように言われ、安藤は一気に身体が熱くなった。 * 「あー、面白かった!」 「うん、すごく良かった!特に音楽が良くなかったか?あの途中のシーンのさ……」 「あっ、それ俺も思った!胸熱だよね~」 正直最初は映画どころではなかったのだが――仁が安藤の手を握りながら鑑賞し始めたので――途中からは二人して映画の内容に夢中になり、手を繋ぐのも恋人同士の感覚だけではなく、友人同士が盛り上がるような感覚に時々変わったりもした。 安藤はシアターを出る時もついうっかり手を繋ぎそうになってしまったのだが、仁に『両手開いてないとゴミが持てないよ』とウインク混じりで言われて我に返ったのだった。 「映画とかいっつも一人で観てるから、こうやって終わったあとに感想を言い合えるのってなんかいいなぁ」 「俺もそう思う。優介さんと感動するツボが似てるのも嬉しい」 「うん」 「あと、可愛かったし」 「……」 誰が?というのは、仁の顔を見れば聞くまでもない。安藤はさっきの出来事が思い出されて急激に恥ずかしくなり、『じゃ、昼飯行こうか』と仁を促した。――その時。 「あれ~っ安藤課長じゃないですか!えー偶然ですねー!」 見知った声と、会社での呼ばれ方に反応して振り向いた。そこに居たのは女性二人組で、ひとりはこの間映画に一緒に行きたいと言ってきた佐野だった。 安藤は、週末に映画を観ると言っただけで詳しい場所も時間も教えていないのに、何故彼女がここにいるのだろう……と数秒間考えたが、偶然というところに落ち着いた。 「課長がこの映画観るって言ったから、私も観たくなって来たんですよー!」 「そ、そうなんだ……」 「お友達ってこの人ですか?なんだかカッコイイ人と知り合いなんですね~、意外です!あ、こっちは友達の田中です、事務の。知ってますよね?」 「うん……どうも、お疲れ様です」 「安藤課長、お疲れ様です~ってか、こんにちは!」 聞いていないし勿論彼女のことも知っているのだけど、この流れでは安藤も仁を紹介せねばならなくなってしまった。 せめて仁に、佐野に仁の事を人見知りだと嘘を吐いてしまったと伝えたかったのだけど……。 「あの、そちらは?」 「――初めまして、安藤さんの飲み友達の高崎といいます」 安藤が紹介する前に、仁は自発的ににこやかな笑顔で自己紹介をした。 当たり前だがとても人見知りするようには見えなくて、安藤は嘘を吐いた手前、佐野の顔が見れなくなった。

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