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第13話 普通
男同士なので、小洒落たカフェでランチをしたいという願望も特になく、目についたラーメン屋で簡単に昼食を済ませた。
「さて、と……。仁、どこか行きたいところはある?」
「それなんだけど、俺って基本夜にしかデートしたことないから、昼間ってどこに行ったらいいのか分かんないんだよね」
「……そうなのか?」
「うん。昼間にデートするのは優介さんが初めてだから」
安藤は、いくらなんでもそれは嘘だろうと思った。さっき喜ばせてくれたお返しというか、いわゆるリップサービスだろうな、と……。
しかし、仁が派手な見た目に対してあまり軽薄なタイプではないことは、ここ最近のやりとりで安藤には伝わっている。
結局安藤は最適なリアクションができず、仁はそんな安藤の真意を勘違いしたようだった。
「あ、優介さん初めてとか重い?ごめんなさい」
「ちがっ、そんなんじゃないよ!ただ、ホントかなって……ホントだったらもちろん、凄く嬉しいけど」
「良かった、ホントだよ~」
それなら嬉しいのだが、逆を考えると今までの恋人は昼間に一度もデートをしてくれなかったことになる。
別に男二人で昼間に出掛けるくらい、恋人でなくとも普通にするだろう、と安藤は思う。
詳細がひどく気になったが、仁がにこにこして安藤を見ているので深くは突っ込まないでおいた。このこともまた、もっと仲良くなってからもう一度聞けばいい、と思ったのだ。
すると、仁がいきなりひらめいたように言った。
「あ、俺行きたいところがあった!」
「どこ?」
「優介さんの部屋!」
仁の意外な希望に安藤は一瞬ぽかんとしたあと、それならばと提案した。
「じゃあ、お菓子とか買って今度はうちで映画鑑賞しようか。ブルーレイ買ったけどまだ観てない映画が何枚かあってさ……」
「それ、そういうことがしたい!」
「じゃあそうしよう」
お菓子は安藤宅の近所のコンビニで買うことにして、二人は駅方面へと向かった。
その途中、安藤は急にピタリと足を止めて仁の方を振り返った。
「どうしたの、優介さん?」
「あのさ、今日は仁が俺の部屋に行きたいって言うからこれから家デートに切り替えるけど、俺はいつだって……外が暗かろうが明るかろうが、仁とデートしたいって思ってるから」
突然の安藤の言葉に仁はかなり驚いたようで、一瞬眉を寄せて泣きそうな顔になったあと――
「…….うん」
素直に返事をした。
「じゃあまた、昼間から映画館行こうな」
「うん、行く!」
夜にしか会えない――会わない恋人なんか、ただの都合のいい存在じゃないか。
安藤は仁をそんな風に思っていないし、そういう風に思っているとも思われたくない。
だから、はっきりと自分の意思を伝えた。
付き合う相手にはとことん誠実であることが、安藤には何よりも大切なのだ。
「……仁、どうした?」
「んー?明るいと手が繋げないなあって」
「はは」
ただ気の所為かもしれないが――少し、仁の表情が曇った気がした。
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