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第15話 宝物

「優介さんって、会社で結構モテるんだね」 「え……え?」 結局あのあと連続で三回セックスをして、しばらく動けなくなった安藤を見かねて仁がコンビニで夕食を買ってきてくれた。 それを二人リビングで黙々と食べていると、ぽつりと仁がそう言った。 「優介さん独身だし、かっこいいもんね」 「いやいや俺は別にかっこよくなんかないし、普通だよ。ただ、社内で前の彼女と別れたって噂が流れてるらしくて……秘密にしてたつもりなんだけど」 「それであわよくばを狙って、ってこと?」 「う~ん……そういうことかなあ。独身の奴なんか、俺以外にも沢山いるんだけど」 しかし、安藤にも今の自分が少しモテている自覚はあった。 ただ、それは自分が魅力的だからではなく、単に『扱いやすそうだから』という理由だろうということも気付いている。 それに今は仁と付き合っているのだから、モテようとモテまいと関係ない。 「なんか、そんな優介さんを男の俺が独占しててすいませんって感じ」 仁の言葉に、安藤はひどく驚いた。 「はあ?仁の方がよっぽどモテるだろうから、それは俺の方が思ってるよ……実際、今日会った二人、仁を見る目の方がよっぽどギラついてたぞ」 「そう?」 「そうだよ。まあ、彼女たちの気持ちは分かるけどな……」 仁はお世辞ではなく本当に格好いいから、普通に世の女性が放っておかないだろう。もちろん女性だけでなく、男性も。 なのにどうして、自分のような冴えない平凡な男と付き合ってくれているのだろう。 どうして、好きになってくれたのだろう。 『男同士なんだから難しく考えないで』と軽く誤魔化されてしまったけれど……。 安藤はもう一度訊いてみようか、と思った。「あのさ、仁――」 しかし、それは仁の質問によって遮られてしまった。 「優介さんはさ、きょうだいとかいるの?」 「え!?何だ急に……兄が一人いるけどもう結婚してて、子どももいるよ」 家族に関することは、同性同士が付き合うときには必ずブチ当たる問題だろうと安藤もとっくに予想している。だから安藤は、聞かれていない兄の家族構成までペラペラと答えた。 もう親には兄が孫の顔を見せてくれているから、自分は無理に結婚しなくても大丈夫なんだよと、まるで予防線を引くかのように――。 「そうなんだ。子どもは男の子?女の子?」 「女の子……姪っ子ってすごく可愛いよ。つい何でも買ってやりたくなる」 「あはは、親戚のおじさんだ」 「その通りだよ」 自分のことは言えるけど、仁は、仁の家族のことは聞いてもいいのだろうか――?。 もう少し先のタイミングでと思っていたけど、今なら。 「姪っ子かぁ、いいなー」 しかし、どこか切ないような遠い目をしている仁の横顔を見たら。 (……やっぱり、聞けない……) やはり、仁が自分から話してくれるときまで待とう、と思った。 その代わりの話題として。 「あのさ……もうすぐクリスマスだけど、仁何か予定ある?仕事とか……あ、またあのバーでクリスマスパーティーとかあるのかな」 「そんなもん行かないよ、優介さんといるに決まってるじゃん」 「!」 「ね?」 直球で自分と一緒にいると言ってくれた仁に、胸が熱くなる。年上のくせにヘタな誘い方をしてしまった、と思った。 「……うん。あ、じゃあ何か欲しいものはある?」 「優介さんから貰えるものなら何だって嬉しいよ。でも、一緒にいられるだけで嬉しいから物はいらない」 「えー?」 (そりゃ、俺だって仁と一緒にいられるだけで嬉しいけど……) 「俺もあげないから。後に残るもの貰っても困るでしょ?」 「え?」 安藤が思わず聞き返したら、仁は一瞬『しまった』という顔をした。 「だからその、一般論として……だよ」 「仁、」 「ごめんなさい、今の言葉は良くなかったね」 誤魔化しきれないと思ったのか、仁はすぐに謝ってきた。 その潔さはいいと思うが、安藤はなんだかひどく胸が苦しくなった。 「俺……以前仁から貰ったチョコレートの包み紙、全部取ってあるよ」 「え?」 ハロウィンパーティーの翌朝、枕元に残されていたメッセージと、いくつかのチョコレート。 あの日仁に掛けられた魔法は、未だに持続したままだ。 もう一生とけなくてもいい、と安藤は思っている。 「俺の宝物なんだ。だから……俺からお前に何かあげるのは、いい?」 「っ……」 仁が泣きそうな顔をしたので、安藤は思わず仁を抱きしめた。 なんだか初めて、彼の心に触れた気がした。

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