「好きなんですか？」 「え？」 　一瞬、高崎の質問の意味が分からなかった。なので、思わず聞き返してしまった。 　すると今度は主語を付けて、丁寧に質問された。 「佐野さんは、優介さんのことが、好きなんですか？」 「あ、う……そのぉ」 「別に隠さなくてもいいですよ、最初から気付いてましたし」 「はあ～！？」 　最初からということは、映画館で会ったときからということだ。 　友人田中には『あんた、顔に出過ぎだから。きっと課長にもあんたの気持ちはバレバレだよ』とよく言われるが、まさかこのイケメンにまで気持ちがバレていたなんて。 　結子は恥ずかしくてしばらく口がきけなかったが、逆にこれはチャンスじゃないか？ということに気が付き、バッと顔をあげた。 「分かってるなら協力してよ！」 「イヤです」 　またあの笑顔だ。でも、今度は負けていられない。 「何でよ！別にいいじゃないのよぉ！」 「俺はまだ佐野さんのことをそんなに知りませんから、大切な友人である優介さんをそうホイホイと簡単にお願いするわけにはいかないんです。先々月くらいに失恋して落ち込んでましたし」 　あの日安藤がゲイバーに癒されに来たのはそれが直接の理由だったわけではないが、それも理由のひとつだと考えられるので仁は嘘はついていない。 「ああ、やっぱり落ち込んでたんだ課長……まじ許さん、あの女！課長と同期ってだけで仲良くしてぇ～～！！」 「佐野さん、病欠のわりにはめっちゃ元気っすね」 「うるさいわね！　――で、協力してくれるの？　くれないの！？」 「え？　イヤだって言ってるじゃないですか」 「なんでよぉ――！！」 　結子が喚いたら、高崎はクスクスと可笑しそうに笑いだした。そのイケメンすぎる仕草にまた、結子の心臓は落ち着かなくなる。 「佐野さんのことをまだよく知らないから、って言ってるじゃないですか」 「……じゃあ、私とも友達になって、私のことを知って貰えたら協力してくれるの？」 「そうですね。俺が認めることができたら」 　何故好きな上司と付き合うのに、この男の許可が必要なのだろう。 　どうにも腑に落ちないが、結子がどんなに必死に安藤にアプローチしても、まったく良い反応が貰えたためしがないため、今はこの男に頼るしか方法はない。 「……優介さんには、貴方みたいなタイプが合ってるのかもしれないし」 「え？今なんて言ったの？」 「別に」 「別にって……冷たいんだか優しいんだか分かんない奴ねぇ……あ、あんたの上司が呼んでるみたいよ。ねえ、下の名前とラインのID教えて」 「仁だよ、高崎仁。IDは――」 　仁はそこらに落ちていた木の枝で、地面にさらさらとトークアプリのIDを書いた。 「ありがと、帰ったらメッセ送るから。私は佐野結子だよ」 「結子、クリスマスイヴは予定空いてる？」 「もう呼び捨てかよ！　……空いてるけど、何で？」 「そのまま、空けといてね」 「は？」 　遠くからおっさんが野太い声で『じーん！　お前いつまでオンナとくっちゃべってんだァ！』と叫ぶ声がする。自分から休憩に行けと言ったくせに、勝手なおっさんだ。 「――きっと、サンタさんが来てくれるから」 　泥まみれの作業服にはとても似合わない、気障すぎる科白をホストのような笑顔で言われて、結子は返事もできないほど固まってしまった。 　そうしているうちに仁はさっさと作業場に戻って行き、ベンチには結子一人が残されていた。 「な……なによあいつ、私は安藤課長が好きなんだから、課長から私を奪いたいなんて思っても、だ、ダメなんだからね～～っ！？」 　まるで二人の男に取り合いされている少女漫画のヒロインのようなセリフを真っ赤な顔で吐きながら、結子はマンションの部屋に帰った。 　そしてコンビニに行くのを忘れていたことと、ずっとスッピンのままで仁と話していたことを思い出し、悲鳴をあげるのだった。