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第27話 告白
それは、仁からのメッセージだった。しかし文面は『優介さん、』と呼びかけているだけで、本文はこれから来る予定のようだ。
ふと隣を見ると、結子にも同時刻にメッセージらしきものが届いたようで、ふたりは顔を見合わせると笑みを浮かべて『失礼』というニュアンスでぺこっと同時に頭を下げた。
(なんだ? 待ち合わせに遅れるとか――?)
安藤は妙な胸騒ぎを感じながら、アプリを開いた。
すると次から次へと仁からのメッセージが、途切れ途切れで届いた。
『優介さん、ごめんなさい。俺は今日そこには行かない。』
(……え?)
『もう優介さんには会わない。優介さんは優しいから俺と別れるつもりはなかっただろうけど、俺はあなたの将来を壊したくないんだ。優介さんならこの意味が分かるよね?』
『もう二丁目には来たらダメだよ。できたら男は俺だけにしといて。』
『それと実は俺、そこにいる結子と仕事中に偶然出くわしたことがあってさ、友達になったんだ。彼女、ちょっと思い込みが激しいし馬鹿っぽいところもあるけど、まあまあ一途だし、前の彼女と違って優介さんのこと大事にしてくれると思う。』
(はあ!? 仁と佐野さん、いつの間にそんな関係に!?)
安藤にとっては、仁の別れを告げる深刻なメッセージよりもそっちの方が断然衝撃だった。
『今までありがとう、本当に楽しかった。付き合うときに、俺からは手放さないって言ったのに、嘘になってごめんなさい。』
「………」
『さよなら、優介さん。』
メッセージが来なくなったのを確認して、安藤はアプリを閉じた。
ふうっと一息つくと、隣の――いつのまにか仁と友達になっていたらしい部下の――結子をどうしたものかとちらりと見ると、彼女はスマホの画面を見つめたままわなわなと震えていた。
「? 佐野さん、どうし……」
「ふぐっ……うぅ……っ仁のバカぁぁ!!」
「え!?」
結子は、スマホ画面を見つめて何故か涙ぐんでいた。
(な、なんで佐野さんが泣いてるんだ!?)
安藤には結子の涙の意味が分からない。仁からのメッセージによると、安藤は結子と付き合うように勧められていた。以前から結子にアプローチされていたのは気付いていたが、それにしても――
「安藤課長……ごめんなさい!」
「な、何が?」
「実はわたし、ヒック、私入社してからずっと安藤課長のことが好きだったんです! だけど仁と会って、時々つまんない内容のメッセやり取りしてるうちに、わたし、あ、アイツのことが好きになっちゃったみたいなんです!!」
安藤は驚いた表情をして見せたが、実際はそこまで驚いていない。仁のようなイケメンと親密にメッセージのやり取りなどをしていれば、好きになってしまうのも想像に難くないからだ。何せ、男の自分ですらそうだったのだから。
「仁から俺の言ったとおりサンタさん来たでしょ、あとは頑張れっていうメッセージが来て……。私、今日は課長と過ごしたかったですけど、恋人でもないんだしそんなの無理だから、仁と過ごすんだと思って仁のことばっかり考えてプレゼントも選んだんです! なのにここに来たのは仁じゃなくて安藤課長で、仁に頑張れって応援されて……最初はそれを望んでいたはずなのに、今自分がこんなにショック受けるなんて思ってなかったんです!」
結子は人目も気にせずわんわんと安藤の目の前で大泣きしており、周りの視線は容赦なく二人に――特に泣かせていると思われている安藤の方に突き刺さってくる。
でも、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「……仁のメッセージで、自分の本当の気持ちを確信したんだね?」
「うっ、うっ、そうです……ごめんなさい課長ぉ、わたし、課長よりもアイツのことが好きみたいで……ほ、本当にごめんなさいっ……!」
安藤は、何故自分が結子に謝られているのかよく分からないのだが、結子がここまで自分の気持ちを素直に曝け出してくれたのだから、自分だけがだんまりを決め込んでいるのはよくないと思った。
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