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第4話

ベッドの上にクッションを置き、それを背にして座る。 両側に二匹の僕が正座をする……固くなり過ぎた。 「……ちょっとお腹一杯だから控えめに、だが」 「えーーーーーーーー!!」 「うるさい、銀之丞だけにするか」 「ごめんなさい、僕のも是非…!!」 がばっ、という効果音が目に向かって飛んでくる錯覚を覚えるほど勢いよく服を脱ぐ。 もう少し情緒と言うものが欲しい、あまりにも思い切りが良すぎる。 現実逃避に銀之丞を見れば、表情はわかりづらいが、分かりやすく尻尾がぱたぱたと揺れていた。 「お前は待てが出来るな?」 顔の前で手の平を広げると、静かに頷く。 お前は良い子だな、と耳元で囁いて頭を撫でれば甘えるように身体を少しだけ傾ける。 良い雰囲気になりそうなところへと、上半身裸の男が割り込む。 「俺が先です」 チッ、と二人の舌打ちが重なった後、銀之丞はそっと身を引く。 分かりやすく頬を膨らませる金之丞を宥めるように撫でながら抱き寄せる。 万人が持つであろうイメージ通り首筋に歯を立てれば、身体が跳ねる。 私に爪を立てないように、シーツを握りしめて痛みに耐える。 垂れる赤い雫を舌で舐めとると、金之丞は私に抱きついてきた。 頭と腰に手を回して支えてやりながら、吸い上げる血は極上だ。 人間の血だけしか飲まない者もいるとは聞くが、活発だなと思う。 狼男を囲っておけば餌を探すのに困らない、多少吸い過ぎても死なない。 ボディガードにもってこい、そしておそらくだが、従順。 人間の血を「美味しい」と思った事は本当に最初だけだったから。 遠い昔、知り合いの吸血鬼に『良い感じの長生きする丈夫な僕を探せ』と言われたから拾っただけだったが。 あれは間違いじゃなかったと思う。 よくもケダモノの血を良く飲むな、と揶揄する者にもあったが。 化物にそれを言う資格があるのかとも思う。 私が楽できて腹が膨れて、美味ければ良いじゃないか。 「ぁ……っ!ごしゅ……じん……さま……」 「……ん、少し吸い過ぎてしまったな」 苦しそうな声で意識を戻すと、虚ろな目をした僕がそこに居た。 余計な事を考えすぎて加減を誤った。 腕の中でぐったりとする金之丞を抱き寄せて首筋に深く口づける。 先ほど開けた穴がふさがったのを確認してからベットに寝かせてやる。 「すこしって……言ったじゃない、ですか……」 「思ったより疲れていたのかもしれないな」 嬉しそうに笑いながら瞳を閉じる彼の頭を優しく撫でる。 少し寝れば回復するその丈夫さがあるから、安心して居られる。 殺してしまうかもしれない、なんて考えなくていい。 なんて楽なんだろうか。 愛しても、大切にしても、うっかり死ぬ事はほとんどない。 人間相手には簡単に抱く事の出来ない暖かい感情が湧きあがる。 餌として、などとうの昔に割り切れなくなっているのだ。 穏やかな寝息が聞こえてきた所で、服の裾を掴まれる。 出来る従順な僕も、長時間はまだ『待て』が出来ないらしい。 「待たせすぎてしまって悪かったな」 ただ静かに、そこで待ち続けていただけでも褒めてやりたいのに。 申し訳なさそうな顔をする、まだ来てしばらくの僕を受け入れる為に手を広げる。 甘えるように胸に顔をうずめてくるのを優しく抱き留めて撫でまわす。 顔をあげたかと思えば、牙が刺さらないように気を付けて肩口を甘噛みされる。 普段から控えめなコレは、弟に機会を奪われがちだからか、こういう時はここぞとばかりに甘えるのだ。 そして私も中々相手をしてやれない分も、弟とは過ごしていた長い時の差も考えて沢山甘やかしてやる。 「噛みつきたいのは私なんだが、そろそろいいか?」 「……っ」 ハッとして離れると、頭をぶんぶんと縦に振った。 もたもたと服のボタンを取り始めるのを、手伝わずに眺める。 最初は手伝ったりしたのだが、金之丞に「覚えたいらしい」と言われてしまったのだ。 今ではこの時間待つのもまた一興か、と楽しみ始めている自分がいる。 いずれ出来るようになるのもそれはそれでまた一つの楽しみにもなる。 進歩する技術についていく以外に変化の無い私には、この成長はそれは鮮やかに映るのだ。 なんとか最後のボタンを取り終え、上のシャツを脱ぐと傷跡の多い鍛え上げられた上半身が露わになる。 私としては既に見慣れているのだが、見られる方が慣れていないのか、少し恥ずかしがる。 初々しい反応はいつ見ても良いな、と口に出すと流石にシャツを着て逃げられそうなので飲み込む。 おいで、と弟には絶対にしてやらなくなった穏やかな声で呼び寄せれば私が噛みつきやすい位置で留まる。 未だ緊張で強張る首筋に歯を立てる前に舌で舐めると身体が大きく震えた。 声が漏れるのをこらえるために、きつく噛みしめているのを感じて一度離れる。 獣の耳の方を柔らかく撫で、頬に触れ、首筋を通って鍛えられた胸筋をもみほぐす。 女性の感触も知っては居るが、力を入れていない彼の胸は柔らかくなかなかのものである。 ……弟は弟で鍛えてない分ぷにぷにはしているのだが。 それはともかく。 乳首を指先で転がしてやれば、抑えきれなかったのか、甘い声が漏れた。 口を塞いだ両の手に、私のもう片方の手を重ねる。 「遠吠えしない限り怒らないから、聞かせなさい」 私の言葉に素直に従い、彼は手をどけた。 すると、人の方の耳まで赤くなった顔がよく見えるようになった。 弟違い正式に契約を交わしている彼には、私の指先は全てが心地良くある。 今までより扱いが良く感じるのは、そのせいではないだろうか。 腹筋の割れ目をなぞり、手をその下に伸ばせば既に固くなっていた。 下着の上から軽く触れて、少しずつ中へと手を入れていく。 私とするのに都合が良いように、完全に人間と同じ形状に変化しているそれに直接触れてやる。 救いを求めるように伸ばされた腕が私に絡みつき、切実な視線が向けられる。 「まだ、『駄目』だ、分かるな?」 涙を貯めつつある瞳を見つめ、穏やかにそして出来るだけ優しく。 待てを言いつければ、従順な僕は私のシャツを強く握りしめた。 最初に私の腰の骨を文字通り折った事を想えば上出来だ。 吸血鬼だから問題はないのだが、骨が折れるのは痛い。 今度こそ鋭く歯を立てれば、赤い花が首筋に咲いた。 落ちる花弁を彼を弄びせき止めるのとは反対の指先で掬い上げて舐めとる。 直接舐めとって欲しいのか、身を乗り出してくる様はそそるものがある。 待てをしたくせに私自身が待てないのだから笑えない。 滴り落ちる雫を舌で舐めとり、先ほど開けた穴から直接飲み始める。 逃げるつもりはないのだろうが反射で離れようとする頭を抑える。 言葉にならない声が、口から漏れる音を楽しみながら、喉の渇きを潤す液体を味わう。 あまり意地悪をするのは本意ではないので、一度吸血するのをやめて耳元に吐息を落とした。 「もう、いいぞ」 同時に指先で弾いてやれば、声と一緒に白濁が吐き出されていった。 何がどうなっているのか分からなくなっているのだろう。 泣きながら、だが私の服を強く握りしめたまま彼は姿勢は崩さずに居た。 「良い子だ。もう力を抜いても良いぞ?」 そう促せば、私に身を預けるように倒れ込む。 穴の開いたままの首筋に深く口づければ、溢れていた血はすぐに止まる。 ちゃんと塞がったかを確認し終ると、彼の人の姿が揺らいだ。 「……お前にだけ、ご褒美をやろうな」 眠ったままの弟を横目に、人の姿を保てなくなった狼を優しく抱き上げ浴室へと向かった。

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