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キラキラの運命
キラキラは僕の手に包帯を巻いてくれた。
「緊張しなくて良い。ゆっくり寛いでくれ」
ゆっくりと言われても……こんな広い明るい場所、落ち着かない。
見渡して木箱が有ったのでその横に体を落ち着けた。
……明るい場所では自分の醜さがよく見えてしまう。
せめて視界の邪魔にならないようにしないと……。
「何か食べるか?……と言っても野営でたいした物は出せないが……」
頭を横に振る。
キラキラは優しいけれど……お母さんを殺した人達も、神子様の側にいた優しい人達だった。
キラキラが皆を殺さないと言うのが本当かどうかもわからない。
さっきの怖い人達みたいに、キラキラも痛いことするのかもしれない……。
僕を『運命の番』と呼んだ。
匂いで分かると言った。
僕には匂いがわからない。
『運命』
あの人がお母さんの言った僕だけの人なのか、男達が言っていた子供を産むためだけの運命のアルファなのか……僕には分からない。
お母さん……。
お家に帰りたい……。
「隊長、あのオメガの事がわかりました」
タイチョー……キラキラさんの名前?
テントの外から声が聞こえた。
「少し話をしてくる。待っていてくれ」
僕の頭を撫でるとタイチョーさんは出ていった。
耳を澄ますと、二人の話し声が聞こえる。
僕の事を話してる……。
僕の名前、年齢、僕の……値段?……そしてお母さんの事……。
タイチョーさんも……街の人達みたいに僕の事をヒソヒソ話す。
街の人と同じ……タイチョーさんが優しく触れてくれた、顔の傷をなぞった。
僕を……守ってくれるのはやっぱりお母さんしかいなかった。
帰りたい……帰りたい……。
入り口は……タイチョーさんともう一人の人が話している。
周囲を見渡すと、家の壁は布で出来ていた。
持ち上げると、僅かな隙間が開いた。
これならなんとか通れそう。
待っていてと言われたけれど……。
タイチョーさん……ごめんなさい。
そこから隙間に体をくぐらせて抜け出した。
タイチョーさんのキラキラした星に気を取られていたけれど……塀の外の世界はなんて広いんだろう……何処までも果てしなく続く世界。
憧れだった世界。
なのに……今はあの小さな家に戻りたくてしょうがない。
耳を澄ませて人のいない道を選び家へと戻った。
静まり返った室内には、先程の僕の血が残されていた。
血………。
ドクドクと速まる胸を押さえて、浮かんできたものを振り払えように頭を振った。
首から下げた鍵を取り出して、床下にお母さんが作った倉庫の扉を開けた。
先程は咄嗟の事で頭に浮かばなかったけれど、分かり辛い入り口は、隠れるのには持ってこいだ。
お母さんが残してくれた、たっぷりの保存食と魔法の粉。
保存食に粉をかけてお腹を満たすとそのまま体を横にした。
この保存食が尽きたら自分で食べ物を探して生きていかなければいけない。
食料は神子様からのお恵みだった……。
何処に行けば食べ物はあるのだろうか……。
目が覚めたら……皆いなくなってたら良いな。
タイチョーさんは僕だけの人じゃ無さそうだし……ここでお母さんとの約束を守らないと……。
いつか来る……僕だけの人。
足音が聞こえる。
大丈夫……ここは知らない人には分かり辛いはず……。
静かにしていればきっと……。
「マシロ!……マシロ!!」
名前を呼ばれてる……タイチョーさんの声だ。
お母さんがいなくなってから……初めて呼ばれた。
「………ここか?」
気づかれないと思っていたのにあっさり見つかってしまった。
明かりが射し込み、暗闇に慣れた目に眩しい。
目が眩んでいる間にタイチョーさんに抱きしめられていた。
「良かった……残党に連れ去られてしまったかと思った……」
勝手に抜け出して、怒られるかと思ったけど……心配して来てくれたんだ……。
ごめんなさいと頭を下げる。
「ここは……食料庫か?こんなに沢山……」
タイチョーさんが食料に気を取られている間に魔法の粉の入った瓶を手に取った。
保存食はともかく、この粉だけは持っていかないと。
「これを取りに戻ったのか?言ってくれれば取りに行かせたのに」
これを取りに来たわけではないけれど……。
怒られるのも嫌なので黙っていたら、タイチョーさんは僕を抱いたまま立ち上がった。
「これはお前の母親が残してくれたものか?」
そうだ。
お母さんがもしもの時に、僕が困らないように残してくれた物。
頷くと、タイチョーさんは寂しそうな顔で笑った。
「マシロはお母さんが大好きなんだね」
これにも大きく頷くとタイチョーさんは泣き出しそうな顔で僕を強く抱きしめた。
ちょっと苦しいけど……腕を引っ張り出すと、お母さんが僕が泣いている時にしてくれたみたいに頭を撫でてあげた。
タイチョーさんが何で泣きそうな顔をしているのか分からないけど……一人で泣く寂しさは知っている。
タイチョーさんはお母さんを悪く言わない。
タイチョーさんの『運命』になら……なっても良いかもと思った。
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