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大きな背中

お昼を食べて再出発すると………ティオフィルさん、何だか元気がない? さっきまでキラキラ輝いていた星も消えてしまった。 何かしてしまっただろうか……? ご飯を食べるまではキラキラも輝いていたのに。 ご飯の時に何かした? …………あ! ご飯のお礼を言ってない。 うな垂れてしまったティオフィルさんに声を掛けづらくて忘れていた。 今から言っても平気かな? もう遅いかな? 「……ティオフィルさん……あの……ご飯美味しかったです。ありがとうございます」 後ろを振り返り見上げると、ティオフィルさんの目がフッと柔らかくなった。 「どういたしまして」 またキラキラが輝き始めた。 やっぱりちゃんとお礼を言わなかったから怒っていたのか。 お礼は忘れない様にしないと。 「…………」 ティオフィルさんの機嫌も良くなったし、周りの景色が楽しくて……気付かなかったけど……。 どうしよう……お尻が痛い。 でも誰も何も言わないし……僕だけ我が儘を言う訳には……。 お尻を浮かせたいけど、脚を置く所に足届かないし……。 手をついて浮かせようと、腰を上げて……手がプルプルしてきた。 手が限界で、ストンと腰を落とすとティオフィルさんにぶつかってしまった。 「ごめんなさい」 離れようとしても馬の揺れで上手く移動できずにいるとお尻に固いものがあたる。 ヒリヒリ痛むお尻に優しくない。 頑張って痛みの元から逃げようとすると引き寄せられた。 「マシロ……すまない」 ? 後ろから抱きしめられて、僕の肩に顔を乗せたティオフィルさんは大きく息を吸い込んだ。 「……よし。皆止まれ!!今日はここで野営だ!!」 王子様は皆お尻が石で出来ているのかもしれない。 食事はちゃんと座って食べないとと頑張ったけど……痛くて座れない。 「どうした? 食欲ないのか? どこか悪いんじゃ……」 オロオロと僕のおでこに手をあてる。 「大丈夫です……ごめんなさい」 心配かけちゃ駄目だ。 ちゃんと食べなきゃ……お尻を床につけて痛みで飛び上がる。 「……お尻か……」 バレちゃった。 慌てて出て行ったティオフィルさんだけど手に何かを持ってすぐに帰ってきた。 「薬を塗ろう、見せて」 ティオフィルさんの膝の上に乗せられるとズボンを下ろされた。 食事中に行儀悪いなと思ったけど……折角薬までとってきてくれたんだしとティオフィルさんに身を預けた。 ティオフィルさんにお尻に薬を塗って貰ったけど、それでもすぐには治らないので、食事もそこそこに眠らせて貰うことになった。 ふかふかな布の上におろされて沢山の布にくるまれて目を閉じた。 昨日、今日と環境の変化についていけず、酷く疲れた。 外の世界は珍しい物がいっぱいだけど危険な物も多いなぁ……。 馬に乗って、違う世界が見れるのは楽しいけど……お尻が痛い。 ちょっと明日の事を思うと……心配だけど頑張ろう。 ティオフィルさんは何処に連れていってくれるんだろう? そこには何が有るんだろう? ちゃんと僕の『運命』を務めないと………ティオフィルさんの赤ちゃんいっぱい産まなきゃ……赤ちゃん……どうやって産むんだろ……? ティオフィルさん教えてくれるかな…………? ――――――――――――――――――― カタタン……カタタン…… ……何の音? それに何だか揺れてる……お母さんに抱っこされてるみたいで心地いい。 肌に触れる柔らかい物に頬を擦り寄せた。 「目が覚めたか?」 ティオフィルさんの声に目がはっきりと覚めて……あれ? ここ何処だろう? テントで寝たはずなのに木の壁に囲まれている。 一面だけ開いていて……馬に乗るティオフィルさんの背中が見える。 「良く寝ていたから起こさなかったんだが、もう少しで昼休憩に入る、即席の馬車で乗り心地は良くないかもしれないが、横になっているといい」 即席の馬車? 顔を出して周りを確認すると馬に引かれる小さな小屋の様な物に乗っていた。 横を見ると馬に乗ったハンソンさんが並んで歩いている。 頭を下げられたので慌てて頭を下げる。 すごい……僕がお尻痛いと言ったから、夜の間に作ってくれたの? みんなと同じ檻で良かったのに。 「ティオフィルさん、ありがとうございます」 「ん……危ないからあまり顔を出さない様にな……」 「はい」 床もフカフカしていて体は何処も痛くない。 壁に囲まれているので見えるのはティオフィルさんの背中だけ。 顔を出すなと言われているので、ぼんやりその背中を眺めていた。 真っ直ぐ伸びた大きな背中……僕も大人になったらあんなに大きくなるのかな? ポケットに入れていたホタル石を取り出した。 他の石はみんなにあげてしまったけれど、ティオフィルさんの瞳の色に似た青い光の石だけ取ってある。 ホタル石を摘まみ上げ、前を進むティオフィルさんの背中に重ねてみる。 キラキラきれい。 ティオフィルさんが僕の『運命』の人じゃなくて、お母さんの言っていた『僕だけの人』だったらよかったのに……。

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