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大好きの証

「………から……ですか」 「………ない。……だ」 誰かが話している。 目を開くとすぐ側にティオフィルさんの顔が有った。 僕、いつの間に寝ちゃったんだろう。 この数日ですっかり落ち着く場所になってしまった腕の中で体を起こす。 「………ティオフィルさん……お話終わった?」 「あぁ……マシロ?気分は?」 気分? 特に悪くも良くもない。 「大丈夫ですけど……またどこかにお出掛け……?」 「いや……まぁ、そうだな……家に帰ろうか」 「家?」 「あぁ。マリユスに用意してもらった、俺とマシロの家」 ティオフィルさんは鍵を揺らして微笑んだ。 僕とティオフィルさんの家……。 「ティオフィルさんと二人きり?」 「嫌……かな?」 「ううん……早く行きたい」 人が多い所はやっぱり苦手。 早く静かな場所へ移動したい。 「わっ!わわっ……」 ティオフィルさんの腕に掴まって立ち上がろうとするといきなり抱き上げられて落ちないようにしがみついた。 「すぐに行こう!!マリユス、もう良いだろう?」 「お待ち下さい」 部屋を出ようとしてリンドールさんに止められる。 「マシロさん、ごめんなさい。私の着ていた物で宜しければ服を持っていってくれませんか?」 服?僕に? でも何で謝られたんだろう? 「よろしいのですか?リンドール様」 「取っておいても……使うあての無い物ですから……」 綺麗に仕舞われていた服を何着か袋に入れて貰い、マリユス王子とリンドールさんにお礼を言うと城から離れた。 「貰っても良かったのかな……?」 「くれると言ったんだ。ありがたく貰っておけばいい。そのかわりに大切にしよう」 「……はい」 リンドールさんの寂しそうな顔が頭に残って気になった。 来たときに通った大きな道とは違って静かな道。 「ここか」 ある門の前でティオフィルさんが立ち止まった。 鍵穴に鍵を挿すと一瞬バチッと光った。 「マリユスに結界を張って貰ってるからね。防犯は完璧だよ」 「結界?」 「ん~壁みたいな物で……決められた人間しか入れない様になってる。マリユスは防御系の魔法に長けているからね」 「魔法!魔法習えば僕も使える?」 魔法使いになればティオフィルさんの役に立てるかも。 「残念。魔法を使えるのはアルファだけなんだよ」 「なんだ………あれ?じゃあティオフィルさんも魔法使えるの?」 「見せたこと……無かったか?」 木製の大きな門をティオフィルさんが開くと………。 綺麗な庭が広がっていた。 「中古だけど綺麗に手入れされているね。さぁ家も見てみよう」 ティオフィルさんに手を引かれて歩く。 チョウチョや小鳥がいっぱい居て……見たこと無い虫も横切って行く。 「ティオフィルさん!あの虫なぁに!?リス!あれはリスでしょう!!」 駆け出そうとした手を引かれて止められる。 「あの虫はバッタだね。探検は後で、まずは荷物を置いて着替えよう」 リスいなくなっちゃったらどうしよう………残念だけど諦めて建物に向かう。 大きな庭の中に綺麗な大きな家。 神子様のお屋敷みたいだ。 ここに住んで良いの? 「こじんまりとした家だけど、俺とマシロだけなら十分でしょ?」 全然こじんまりじゃ無いよ。 僕の家何個分だろう。 家の扉を開くとリンドールさんのお部屋みたいに綺麗な部屋が広がってる。 「俺とマシロの部屋は2階かな?おいで着替えよう」 リンドールさんのくれた服は穴を開けなくても尻尾がちゃんと出るようになっていた。 ちょっとブカブカだけど丈はぴったりで裾を踏んで転ぶことも、無さそう。 「良かったな。リンドール様にはまたお礼をしよう」 「はい」 ………着替えも終わったし……そわそわする。 「ははっ。じゃあ庭を散歩しようか?」 「はい!!」 ティオフィルの手を取って庭へ走った。 「ティオフィルさん!この虫は?」 「青虫だね。これが成長してサナギになって蝶に変わるんだ」 「この花は?」 「薔薇だ。茎に刺があるから触らないようにね」 見るもの全てが珍しくて、ティオフィルさんは一つ一つ丁寧に教えてくれる。 空が赤く染まるまでティオフィルさんは僕に付き合ってくれた。 「楽しかったか?明日も明後日も……時間はたっぷりあるんだ。今日はもう休もう。ご飯の支度もしないと……」 「………ティオフィルさん………」 「ん?何だ?」 ティオフィルさんの腕を引いてしゃがんで貰うと、ティオフィルさんの唇に自分の唇を重ねた。 「……マシロ!?」 唇を離すと真っ赤な顔で口を押さえて目をまん丸にして慌てている。 「お母さんが……大好きな人に大好きだと伝えたい時にやるって……間違ってた……?」 「………いや……間違って無いけど……無いけど………」 どうしよう……ティオフィルさんに大好きだって伝えたかっただけなのに……困らせてしまった。 下を向いた僕の頭を真っ赤な顔で微笑みながら撫でてくれる。 「マシロ……俺からもマシロに大好きと伝えても良い?」 「はっ……はい!!」 頬を両手で優しく包まれて、ティオフィルさんにキスをしてもらって、ティオフィルさんの暖かい気持ちが伝わってきた気がした。

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