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僕だけの人

強いし、カッコいいし、料理も出来るなんて! ティオフィルさん、どれだけ完璧なんだろう。 僕もお手伝いしたいけど料理なんてしたこと無いし、やれる事を探して食器棚から立派なお皿を取り出して横で待つ。 「ありがとう、マシロ。もうすぐ出来る」 「井戸から水汲んでくる?」 「水はタンクに貯めてあるからこのコックを開けば出てくる」 何か手伝いたいのに出来る事…出来る事……。 「お風呂の用意が出来てるからお風呂に行っておいで」 出来る事を探してウロウロしているとお風呂を勧められた。 「お風呂?お風呂がお家にあるの?」 お風呂と言えば神子様のお屋敷で一週間に一度だけ入る事が許されていた。 この傷を負ってからは……家で沐浴しか出来てなかったけど。 「じゃあ、ティオフィルさんも一緒に入ろ?」 「え……?一緒……?あっと……」 お風呂は皆で入るものじゃないのかな?この国では違うのかな? 「分かった……一緒に入ろうか……」 スープをあとは煮込むだけだから、蓋をして一緒にお風呂へ向かう。 ずっと着ていた服はすぐ脱げたのにこの服は脱ぐのも難しい。 手間取っているとティオフィルさんが手伝ってくれた。 お湯を浴びて手で体を擦ってから、浴槽へ入ろうとしてティオフィルさんに止められる。 「……おいで、体を洗ってあげる」 お風呂用の椅子に座らされて、ティオフィルさんが四角い塊を布につけて擦ると泡が出て来た。 泡を頭につけられて、ティオフィルさんの手がもしゃもしゃと髪をかき混ぜていく。 泡怖い! ギュッと目を瞑ってされるがままにしていると 「マシロ……これは……」 痛たた……。 ティオフィルさんの手がゴシゴシと強めに耳を擦る。 これはと言われても怖くて目が開けられない。 「お湯を掛けるよ?息を止めておいて……」 頭から思い切りお湯を掛けられる。 泡のついた布で体を洗って貰い、尻尾をまた痛いくらい擦られた。 全身泡まみれになってから、お湯で流されて……何だか体がピカピカしてる気がする。 浴槽から、体を洗うティオフィルさんを見る。 ……ゴツゴツしてる。 筋肉だ。力持ちの人。 「僕も騎士様になればティオフィルさんみたいにゴツゴツになれる?」 力持ちになればもっとお手伝いも出来るはず。 「マシロは今のままで十分可愛いよ?無理に鍛える必要はない」 こんなガリガリの体を嘘でも可愛いと言ってくれるティオフィルさんの優しさにバチャバチャとお湯が暴れる。 尻尾が…自制が効かない……押さえようとして………あれ? 白い……。 模様が消えてる。 「尻尾入れ替わった?」 「入れ替わる訳ないだろ。それが本当のマシロの色だ……良く似合ってるよ」 浴槽に入ってきたティオフィルさんに耳を撫でられた。 耳の模様も消えたのかな? ティオフィルさんの横に移動して手を握った。 「…………スープもいい頃合いだろうし上がろうか?」 え?もう? ティオフィルさんお風呂に浸かったばっかりなのに……お風呂あんまり好きじゃ無いのかな? ふわふわの布で体を拭いて貰って、用意してもらった服に着替えた。 ―――――――――――――――――― 食事を終えて、寝るよ、と2階の部屋に移動すると大きな柔らかいベッド。 窓のカーテンを閉めようとしたティオフィルさんに呼ばれて窓に近づくと……庭が……光ってる。 真っ暗な中にいくつもの淡い光が続いて絵みたいになっていた。 「ホタル石だな。見事な庭だ」 すごい……綺麗………。 ずっと見ていたかったけど、ティオフィルさんに抱き上げられてベッドまで運ばれてしまった。 「もうおやすみ。明日もいい日になります様に……」 ティオフィルさんはゆっくり眠れるように額にキスをしてくれた。 「ティオフィルさん……色んな経験をさせてくれてありがとう……」 ティオフィルさんの唇にキスをして、暖かい腕の中で目を閉じた。 ――――――――――――――――― ティオフィルさんは騎士様のお仕事があるらしく。 僕はリンドールさんと勉強中。 尻尾と耳の色の変わった僕を見てリンドールさんは驚いていたけど、綺麗だって誉めてくれた。 キレイなリンドールさんに誉められるとくすぐったい。 「マシロさんのお友達も皆、保護施設の学校で勉強してますからね。マシロさんも頑張りましょう」 僕の前に本が広げられて……文字は読めないけど、絵を見ながらリンドールさんが説明をしてくれる。 「……この様にアルファとオメガは番と言う硬い絆……愛で結ばれるのです。けしてオメガはアルファの為の道具ではありません。ティオフィルさんの言う運命は、マシロさんと愛しあう運命であり……けして子供を産むためだけなどと言うことはありません」 アルファとベータとオメガと……。 どうしたら子供が出来るのか……いきなり沢山の事を詰め込まれて頭がパンクしそう。 「……マシロさんは……ティオフィルさんの事をどう思っていますか?連れ出されたから仕方ない……そういう気持ちですか?」 頭の中で教えられた事を一つ一つ整理している段階なのにリンドールさんから質問をされる。 僕の気持ち……? ティオフィルさんにとっての僕じゃなくて、僕にとってティオフィルさんという存在は……訳の分からないままこの場所に来ているけど……。 「ティオフィルさん……色々教えてくれる。いっぱい優しくしてくれる…ティオフィルさんの側が1番……落ち着ける」 僕の答えにリンドールさんは嬉しそうに微笑んだ。 「……そうですか。マシロさんもちゃんとティオフィルさんの事を愛しているのですね……二人は本当に運命の番なのかも知れませんね」 愛……アルファとオメガが愛し合うのは一人だけだってリンドールさんは言った。 「リンドールさん……ティオフィルさんは『僕だけの人』?じゃあもう、これを飲まなくて良い?」 リンドールさんに常に持っているお母さんから貰った粉を見せた。 「これは………何で……」 瓶の中の匂いを嗅いだリンドールさんの顔が曇る。 ティオフィルさんと同じ反応……この粉が……何なんだろう? 「もう……二度と飲まなくても大丈夫ですよ。マシロさん……貴方は幸せになって……運命の番と繋がれたのですから……」 頭を撫でてくれたリンドールさん……何だか……泣き出しそう。 「リンドール……さん?」 僕の呼び掛けにも、リンドールさんはただ微笑むだけだった。

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