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初めての失敗

「ティオフィル様っ!!私……私、貴方の事を諦められません!!」 リンドールに話があると呼ばれ、俺を信頼してくれるマリユスに信頼を返す形でマシロを預けた。 庭園からリンドールの部屋へ向かおうとしてシャロンに捕まった。 何度も断っているのにしつこい。 「あんな傷だらけで誘拐団に売られる様な怪しい身分の者など貴方には釣り合いません!!」 シャロンの言葉に逆上しそうになったがマシロの視線を感じて努めて冷静に対応する。 「身分や容姿ではなく、私は彼に運命を感じました……そんな出会いが貴方にも訪れる事をお祈り致しております」 丁重にお断りすると、泣きそうな顔をしながらシャロンは去っていった。 紳士を演じきったぞ、マシロを見るとマリユスと手を繋いで消えて行くところだった。 ……マリユスに預けるのは早まっただろうか。 リンドールの部屋をノックすると、中へ招き入れられる。 ソファーを進められ、腰を下ろすと寛ぐ余裕もなく本題に入る。 信頼しているとはいえ、マリユスとマシロガ二人きりというのは落ち着かない。 「リンドール様……話とは?」 「ティオフィルさん……あと数日もすれば帝国からの使者が到着するでしょう。その前に貴方に謝罪をしておきたかったのです」 向かいの席に腰を下ろしたリンドールは美しいが作られたような微笑みを湛えていた。 「私は……マシロさんと同じ、あの塀の中の出身です」 「……は?」 「ごめんなさい……私が全てをお話していればマシロさんがあんな目にあう前に助け出せたかもしれない……のに、マリユス王子に穢れた出生を知られたくなかったばっかりに言い出せなかった」 冗談や嘘でこんな事を言う様な人ではない。 そう分かっていても疑ってしまう程驚いた。 「マシロさんとも会っているんです。覚えていらっしゃらない様ですが、純粋で可愛らしい、真っ白な毛並みのマシロさん……嫉妬していました。それまで神子様の関心は私に向けられていたのに……徐々にその毛に違う色が混じりはじめ、ガリガリでみすぼらしく成長していく様を内心ほくそ笑んでいました……ヤシロさんの異常に気付いていたのに……自分が1番神子様から目を掛けて頂けている事に酔っていたのです。私の醜い嫉妬と保身の為に、マシロさんと貴方の運命を狂わせてしまった」 深々と頭を下げられた。 顔を上げてぶつかった瞳には強い決意が見える。 俺に討たれる事も覚悟の上か……。 「…では……貴方は宰相の実子では無いのですか?」 「貴方という希少なアルファを抱え込む為に、アルファ受けするこの容姿を父に買われました」 俺を抱え込む為に買われた? 宰相が……誘拐団と繋がっていたのか!? 「何も知らなかった私に父は様々な知識を詰め込み……貴方と番になるようにと育てられました。上級種のアルファの番の父。不動の地位ですからね」 作られた様な笑顔は……文字通り作られた笑顔だったのか。 自分の知らない場所で、自分の所為で他人の人生が狂っていたと聞いて、何も言葉がでなかった。 「貴方は私の事など視界の端にも入れてくれませんでしたが……父からはヒートを利用して貴方を誘惑しろと責められました。私は嫌で……私を何とも思っていない男に抱かれるなんて……抑制剤を常用してヒートが来ないように必死で抑えていました。マリユス王子から告白をされ……父も全く靡かない貴方より、マリユス王子との縁談を進め始めました。真っ直ぐな愛を向けてくれるあの方に、私も惹かれてしまったのですが……」 リンドールは辛そうに自分の体を抱いた。 その震える肩を抱いてやりたいが、自分がすべき事ではない。 彼を追いつめたのは俺という存在だ。 「……初めてのヒートを迎え、あの方と体を重ねた後……違和感に気付きました。ヒート時のオメガとアルファの妊娠の確率は番で無くても80%を越える…なのに何度体を重ねても私は妊娠しなかった…検査の結果…抑制剤の乱用で子供を産めない体になっていました…」 『アルファの子供を産むのがオメガの運命』という言葉にあそこまで怒っていた理由か。 ……いや。傷ついていたのかもしれないな。 「マリユスは……知っているのですか?」 「いいえ……あの方はティオフィルさんには及びませんがアルファの性質の強い方です。番になれば、私だけを愛してくれるでしょう……しかし、あの方は王位継承者。世継ぎの産めない番だけを愛してはならないのです……」 リンドールの涙が止まるまで俺は窓の外を眺めていた。 原因の一因でもある俺の下手な慰めはリンドールを傷つけるだけだと思ったから……。 抑制剤の乱用。 もしかしたらマシロもそうなのかもしれない。 ……ただ。 子供の事は気にするなとはっきり言える俺とマリユスでは立場が全く違った。 この事実を知った時、マリユスはどういった答えを出すのだろう。 ――――――――――――――――― マシロを迎えにいき、手を繋いで帰る。 俺も楽しい気分では無いが、マシロも元気がない。 「マシロ?元気無いけど……マリユスに何か言われた?」 「読んで貰った本が怖すぎて……」 思い出したのか手に力が籠った。 「本?……大丈夫だ。俺がしっかりマシロの手を握ってる。マシロを守ってやる」 マリユス。何の本を読んだんだ? 「ティオフィルさん……」 安心させようと手を強く握るとこちらを見上げて来る。 ……その瞳が潤んで……顔も赤く染まっていく。 呼吸も荒く、マシロはその場にしゃがみこんだ。 「マシロ!?どうし………っ!?」 抱き起こそうとして慌てて鼻を塞ぐ。 いつものマシロの匂いではない。 もっと蕩けるように甘く。 もっと神経を痺れさせる。 「この匂い……まさか……!?」 ヒートか!? 抑制剤を飲んでいる筈なのに……なんで!? 「ティオフィル……さん……何か……変」 甘える様な声に耳まで性感帯になった様にゾクゾクする。 ヒート中のオメガに誘われた事もあるが、手を出した事は無い。 なのに……こんなに強烈に脳を支配される。 マシロを抱き上げて全力で家へ戻り、階段を駆け上がった。 ベッドの上でこちらを見上げてくる濡れた瞳に誘われてマシロの肩を掴む。 「マシロ……絶対無理はさせないから!!優しくするからっ!!」 「……好き」 首に抱きつかれ、ギリギリの理性が吹き飛んだ……。 ベッドの上に押し倒し、唇を重ね乱暴に舌を絡める……。 マシロの舌が牙に触れ、噛みたい欲求を刺激される。 漏れる甘い吐息に急かされる様に服を脱がし、滑らかな肌を撫でていき……後ろの孔に触れた。 指を差し込むと、トロトロに濡れている。 指を動かす度に卑猥な音が響く。 熱いマシロの中を擦っていく度に甘い声が上がる……。 マシロの顔をこれ以上見ていると我慢出来そうにないので、体を反転させて背後から覆い被さり……小さな孔に自身を押し当てた。 マシロの体が強張る。 「マシロ……大丈夫だから……力を抜いて……」 耳元で落ち着かせる様に囁くとマシロの体から力が抜けた。 ゆっくり……ゆっくりと……マシロの様子を伺いながら腰を進めていく……。 こんなに小さな体なのに、俺を拒む事無く受け入れてくれる。 『運命の番』の効果は凄いな……。 マシロの中に俺のモノが全て包み込まれた。 細い首が露になっていて……噛みたい……噛みたい………。 必死に欲望を押さえ込んでいると小さな頭が動く。 「ティオフィルさん……これで……僕はティオフィルさんのものになれた?」 「………っ!?」 不意に顔を向けられて、常とは違う色気のある顔にドキリとした瞬間……俺は爆ぜた。 「……………」 番こそいないが、童貞と言うわけではない……なのに…なのに……。 入れただけでなんて…早漏過ぎて笑えない……。 マシロのヒートも予兆なだけだったのか、手でヌイてやるとすぐに収まってくれて助かった。 心配そうなマシロの顔。 早すぎると責められなかった事にほっとしつつ、マシロの頭を撫でた。 「ごめんね……マシロ……満足させてやれなくて」 分かっているのかいないのか……マシロは真っ赤な顔で俺の手を握ってくる。 「……ティオフィルさんに触って貰うの気持ち良かったです……また僕がおかしくなったら……触ってくれますか?」 可愛い誘惑に折れないように気をつけながらしっかりと抱き締めた……スゴく幸せな筈なのにこのモヤモヤ感。 ………ここまで狂わされるとは……オメガ、恐るべし。 ―――――――――――――――――― 下世話な話ではあるが、オメガは体を繋げると抱いた相手に情が湧くと噂されるが……。 マシロの変化は分かりやすかった。 尻尾ははち切れんばかりに振られているし、俺の顔を見ては蕩けるような笑顔を向けてくれた。 「……なのに、何でお前は死にそうな顔をしてるんだ?」 目敏くマシロの変化に気付き、指摘してきたマリユスに顛末を話した。 「あははははっ!!」 マリユスはここぞとばかりに腹を抱えて大笑いする。 俺は笑えないんだよ……。 「初ヒートか……お前とシャロンが一緒にいる姿を見て嫉妬していたからな……誘発されたかな?」 マシロが嫉妬……? 興味無さそうにマリユスと手を繋いで歩いて行ったのは俺への当て付けのつもりか?なんて可愛い小悪魔なんだ! 「お前……ベータとしかやった事無いんだっけ?ヒート中のオメガ相手には何度でも勃つぞ……回数で勝負だな」 マリユスは楽しそうに俺の背中を叩く。 体の弱いマシロの為にはあれで良かったんだと無理やり自分を納得させた。

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