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……だから

大分体に肉がついてきたと思う。 もう少しでリンドールさんと同じくらいになれそうだな。 目標の人物を思い浮かべながらお芋を口に入れる。 砂や土を食べているみたいで……ご飯食べるのあんまり好きじゃないけど……ティオフィルさんの為に頑張ろう。 「マシロ最近よく食べる様になったね」 「はい。リンドールさんにもっと大きくならないとって言われたので」 「そうか……リンドールに感謝しなくちゃね。はい、野菜だけじゃなくてお肉も食べようね……美味しい?」 「ティオフィルのお料理はとっても美味しいです!」 嬉しそうに笑ってくれる。 リンドールさんはオメガはアルファに守られるだけではなく、アルファを支える存在だと言っていた。 待ってて下さい。 すぐに大きくなってティオフィルさんを支えられる様になります。 中庭でリンドールさんを待つ間、習った文字を思い出しながら、ティオフィルさんから借りた本を読んでみる。 「アルファ……とオメガ……は……せい…こうちゅう?」 分からない言葉は印を付けておけば後でリンドールさんが教えてくれるって言ってくれたから、ヒモを挟んでおく。 「オメガ…のくびを…アルファがかむと……番となる」 首? 首をティオフィルさんに噛んでもらえばいいの? 「番と…は……ふうふ…いじょ…うのつよい……」 「マシロ様?」 「あ…はいっ!!何でしょうか?」 急に声を掛けられてびっくりしてベンチから立ち上がった。 ここはマリユス様の個人の庭園だからあまり人は来ないって聞いていたのに。 オメガの……女の人。 前にティオフィルさんといるのを見かけたことがある。 ティオフィルさんの知り合いなら大丈夫……かな? 「あなた……ティオフィル様の為に体を強くしているとお聞きしましたの」 「はっ……はい!!」 「……これをどうぞ?これは栄養満点ですぐに子供を産めるぐらい体力がつくと思うわ。この国のオメガの間ではよくしられているのよ」 差し出された篭を受け取る。 僕の為に持ってきてくれたんだ。 やっぱりティオフィルさんの周りは暖かい人が多いな。 「ありがとうございます!!!」 ま紫のキノコ……何だかすごい色と模様だけど……これを食べたらティオフィルさんを支えられるぐらい強くなれる!! どうせ何を食べても一緒だし……怪しいキノコを思いきって口に入れて飲み込んだ。 「え!?あぁっ!!……そんな!!……本当に食べるなんて……」 オメガの女の人が酷く動揺している。 なんだろう? 「……あ…れ? なんか……気持ち悪い……」 僕はその場に膝から崩れ落ちた。 お腹が痛い……キリキリしてチクチクしてドロドロする。 「あ……くぁ……うぅ……」 目の前もぐるぐる回るし、手足が震える。 苦しい……助けて………ティオ…フィルさん………。 「マシロさんっ!?ロシェルさん!!貴方、何をっ!!」 「私じゃないっ!この子が勝手にっ!!食べるなんて思わなかったの!!」 駆けつけたリンドールさんに羽交い締めにされた女の人が泣き叫んでいる。 その声に人が集まって来た。 嫌だ……また……怖いこと起きる…………。 ティオフィルさん!助けてティオフィルさんっ!! 「マシロっ!!」 あ……ティオフィルさんだ……。 良かった……ティオフィルさんなら何とかしてくれる。 僕の予想と違って、ティオフィルさんは今までみたこと無い位怖い顔をして女の人を睨んでいる。 「こんな臭く不味い物を自ら進んで食べる訳が無いだろう!!」 ティオフィルさんが落ちていたキノコを踏みにじった。 見た目だけじゃなくて……やっぱり普通は食べない物だったのか……僕は……何処までバカなんだろう。 「邪魔だって!!疎まれてるって事を教えてやりたかった!!運命だか何だか知らないけど!後から来てティオフィル様を取って行くなんて!!幸せそうな顔して!当然の様にティオフィル様と手を繋いで幸せそうな姿を見せつけてくるのが憎かった!!その奴隷を憎んでいるのは私だけじゃない!!」 嫉妬……僕がこの人に嫉妬したように、この人も僕に嫉妬してたのか……。 ティオフィルさん……素敵だもんね。 幸せで……周りの人の事……考えてなかった。 「勝手ナ……事ヲッ!!」 剣に手を掛けるティオフィルさんの足を掴んで必死に止める。 「違…う……僕が……勝手に食べたの……」 僕のせいでティオフィルさんを樹の化け物になんてさせたくない。 「マシロ!!待ってろ!すぐに治癒師が来る!!」 抱き上げてくれた手に手を絡める。 最後までティオフィルさんの体温を感じていたい。 「ごめんなさい……嘘ついてた……僕…匂いも味も……わからない」 「……匂い……わからない?」 悲しそうなティオフィルさんの顔。 やっぱり……出来れば知られたくなかった。 「美味しいって食べると喜んでくれたから……嘘なのバレたくなかった…から……」 ティオフィルさんの料理は……本当に美味しそうだった。 「ティオフィルさんの……『運命の番』の匂いもわからない……番……なれない」 『運命の番』の匂いの話の度に匂いの分からない僕に落胆するティオフィルさんの顔を見るのは……辛かった。 「分かった……分かったから!もう喋るな!!」 「ごめんなさい……ごめっ………なさい」 ゴプッとロから血が溢れ出す。 …………1度くらい……ティオフィルさんの匂い……… 嗅いでみたかった……な………。

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