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運命の番の運命
「リンドール様!!今日はこのご本読んで!!」
「ずるい!今日は湖に冒険の約束だよ!!」
小さなオメガの子供達が両手を引っ張ってくる。
「昨日の約束通り、湖に冒険に行きましょう。皆さんを守ってくれる騎士様にも来て貰ってますからね、ご挨拶しましょう」
「騎士様!!宜しくお願いします!!」
可愛らしい声に、武骨な騎士達の口許も緩んだ。
子供達に手を引かれながら、のどかな街道を進む。
幸せそうな笑顔に包まれて、空を見上げた。
あれから数年が経った。
運命の番の悲恋がまた一つ語られる様になった……。
ティオフィルさんがマシロさんを連れて国を出ていった後、この国は大きく変わった。
私が証言した事により……父、宰相が帝国に捕らえられ国王も処罰を受けた。
本来ならば潰されるはずだったこの国は、王子であるマリユスがアルファである事と……被害者である、オメガの私に真っ直ぐな愛を向けてくれていた事で帝国の監視下に置かれるだけで済んだ。
帝国はアルファとオメガに何処までも優しい。
………若しくは、アルファとオメガを恐れている。
マリユスは国王となり……私はマリユスの番となることを受け入れた。
子供は……やはり授かる事は出来なかったが……世襲制を止めれば良いだけだとマリユスは何でも無いことの様に笑う。
様々な理由から保護施設に預けられたオメガの子供達のおかげで寂しさは全くない。
この国はアルファとオメガにとって、とても過ごしやすい国へ変わった……と思う。
「リンドール様?」
小さな瞳が心配そうに覗き込んでくる。
「すみません。さぁ行きましょう」
「リンドール。こんな所にいたのか?風邪を引いてしまうよ」
お風呂上がりにバルコニーで庭を眺めていると後ろからマントを掛けられた。
「マリユス……ありがとうございます」
隣に座ったマリユスの胸に頭を預けて庭を彩るホタル石を見つめる。
「今日は……妙に二人の事を思い出してしまって……感傷に浸ってしまいました」
「それは……これの影響かもしれないね」
マリユスが取り出した1通の封書。
強い魔力が込められているのが私でも分かる。
私に渡して来ると言うことは悪い物では無いのだろう。
拙い文字で『リンドールさんへ』と書かれている。
「これは………?」
思わず体を起こした。
「君宛だ。まだ開けていない。俺にも中を読んで聞かせてくれ」
震える手で封を開くと、一生懸命さが伝わる文字が並んでいる。
「『リンドールさん おげんきですか? ぼくはげんきにしています ティオフィルさんは まだもりからでたらダメだというけど きのぼりもできるくらい げんきになりました いつか あそびにいっても いいですか?』………マリユス……これは……」
「門番をしていた兵に預けられた物らしい、怪しいので廃棄する予定だったが……籠められた魔力が強力過ぎて相談されたんだ……懐かしい魔力だろ?」
マリユスが指で封筒を弾くと光の粒が空に舞った。
「私たちを……この国を彼らは許してくれるのでしょうか……?」
同じ空の下……何処かで彼らは元気に生きている。
それが分かっただけでも嬉しい。
「傷が……ティオの心が癒えたら会いに来てくれるかもな……大丈夫、マシロが一緒なら案外遠い未来じゃないと思うよ」
マリユスの優しい手が頭を撫でてくれる。
「『運命の番』は悲恋で終わらない……ハッピーエンドを後世に遺せる日も近いな……」
マリユスの言葉に文字の滲んでしまった手紙を握りしめた。
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