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第2話 変化
夏休みが終わりいつもの日常サイクルが始まった。授業に合わせて大学に行き、その後にカフェでのアルバイトその繰り返しだ。
母1人子1人の雫にとって夏休みは頑張りどころだった。この夏休みのアルバイトでかなりの金額を稼げることができた。
大学は奨学金で賄えているとはいえ、看護師として雫を支えてくれる母の助けがしたかった。カフェでの11時から20時までのアルバイトに加え、小学生の朝の家庭教師を週に2日していた。
大学に向かう雫は、アルバイト以外で久しぶりに通学路を歩いていた。アルバイトはこの通りを脇に折れて5分くらいのところにあった。
「おはよう。雫。」
声をかけられて振り返れば、小学生から幼馴染みの青山新一 と彼の彼女で高校から一緒の加山香 がいた。
「おはよう、新一、香ちゃん」
2人は高校生からの付き合いでいつも仲が良く爽やかなカップルだ。もちろん雫とも仲良くしてくれて高校の頃から3人で過ごすことも多かった。
「お前は夏休み、相変わらずのアルバイト漬けか?」
「そうだよ。」
「それにしてはお前、顔色良いな?」
「本当に!」
その新一の言葉に雫より背の低い香が仰ぎ見て同意している。
新一は小学生からの幼馴染みだけあり、雫の顔色を読むのが上手かった。歩みを進めながら頬に触れる雫。男としては綺麗な肌は潤っている。夏の暑さを感じさせない涼しい顔をキョトンとさせながら歩く姿に新一はため息が出そうになる。
「そうかな~。」
自覚のない雫には新一の言葉の意味が分からない。
「良いことあったか?」
「特には…。」
「いや、聞き方変える。いつもと違う事があっただろ。」
その言葉に少し立ち止まり考える雫は、最近の出来事を想い浮かべた雫の頬にはほんのり笑みが浮かんでいた。
「そう言えば、友達が出来たよ。」
ニコリと雫が答えると、2人の顔には驚きが浮かんでいた。
昔から、月嶋 雫は友達をあまり作らない事で有名だったのだ。
今まで綺麗な顔をしていることもあり、寄ってくる人間は絶えなかったが、頓着しない雫はアルバイトと勉強で取れない睡眠時間補給の為、寝てる事がほとんどで、新一と香以外の人間と過ごす事は少なかった
新一と香は浮かんだ驚きを笑顔に変えた。
「そっか。良かったな!」
新一は満面の笑顔で雫の右肩をパシッっと叩き雫の身体が揺らいだ。昔から人に対してなかなか興味を持たなくてのんびり過ごすことが好きで、それでいて自分を犠牲にしやすい雫を心配していろいろ構って来た新一にはこの情報は嬉しい知らせだった。
「本当に!」
新一の気持ちを知っている香もそれに続く。
「で、どんな友達?」
「あっ、時間!」
続けて話を聞こうとした新一だったが、香が遮り大学の講義室へ足早に歩を進めた。
3人は同じ学部で、ほとんどを同じ授業を受けている。その日2限目の講義が講師の急な出張の為に休講になった3人はいつもの大学内のカフェテリアに来ていた。
それぞれが飲み物を買い席に着くと早速新一と香の質問が始まった。
「それで朝の話だけど雫、どこで友達出来た?」
甘いミルクティーを口に運んでいた雫は、手を止めて新一に顔を向ける。
「カフェのアルバイト先だよ。」
「で?」
「で、って。新一。その常連さんになってくれた人で、この大学の商学部の3年の人だよ」
この大学の言葉にいち早く反応したのは香だった。
「この大学の人なの?凄い出逢いじゃない!だからなのね~。いつも笑っていてもたまにしか本気の感じじゃない雫くんの表情が優しいよ~。」
「香ちゃん、それ誉めてる?」
今ひとつ誉められている気のしない雫は苦笑する。
「いや、香の言う通りだぞ。」
新一も身を乗り出して、買ったアイスコーヒーを一口飲んでから身を乗り出してきた。
「なら、あそこのカフェに行けばそいつに会えるのか?」
「なんで新一が来るんだよ~。」
雫は今度は顔をしかめた。新一の発言の意味が理解できないでいた。
「俺には確かめる義務がある。」
「うんうん。私も。」
「香ちゃんまで~。なんの義務だよ~。」
まるで親のような発言をする2人の発言に、雫は頭を抱えていた。
それでも言い出したら聞かない2人の事を良く知っている雫は既に諦めるしかない。
「その人の名前は?」
香の言葉に話は戻された。まだまだ興味は尽きないようだ。何故そんなに興味があるのか理解できないが、正直に話そうと思った。
「友長和樹 さん。21才で、テニスサークルに入っていて、5人家族なんだって。」
香が聞いたのは名前だけで、他の年齢、サークル、家族構成の話など聞いてないことに雫は気がついている様子はなかった。その雫の様子に新一と香は目配せをして、カフェに何をおいても行く事に決める。
それだけを語った雫の視線はどこが想いを馳せるようにミルクティーを飲みながら窓の外に視線は向けられていた。
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