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side:和樹
授業開始前の騒がしい講義室の中でいつもの席でテーブルにつっぷして寝ている友人を見つけ、空いている隣の席に和樹は腰掛けながら、優しくレポート用紙で頭を叩いた。
「飯塚、また、寝不足か?リカちゃんはどうした?」
怠そうに伸びをして起きあがり飯塚は普段から重い口を開く。
「リカとは別れた。」
「またかよ、何人目だ?」
和樹は肩をすくめて相変わらずの友人を眺めてため息をついた。
飯塚は本人曰く恋愛体質らしく、彼女がいても誘われれば他の女との情事も厭わない為、浮気していると喧嘩になることが度々で、先日も助けてくれの連絡で巻き込まれ酷い目にあったばかりだった。
飯塚の容姿はモデルのように華やかで、鼻筋は通り目は少々吊目で、二重の眼差しは鋭く、それでいて笑うと可愛いくなると女子からは人気があった。だから、女性と縁が切れることがなかった。
「そろそろ本気の相手見つけろよ。飯塚。」
「俺はいつでも本気だ。」
和樹にはふらふらしているようにしか見えなくても飯塚にとってはどの彼女にも本気で付き合っていた。例え一夜の過ちを止められなくても。
「そっか、悪かった。」
(俺が勝手に思っても本人に自覚がなければ何もならないか。)
「いや、気にしてない。それより最近、お前の方が付き合い悪いだろ?まあ、これはサークルの奴らに言われて俺は知らないけどな。」
言われた和樹は今度は反対にドキリとしてしまう。
和樹には正直自覚があった。飯塚が元で初めて訪れた【ランザ】というカフェの事が忘れられずついフラッと訪れてしまうのだ。
思い返しても何故かは分からない。気が付くと店の前に居るのだ。
店に入り、マスターと彼と話をしてコーヒーを飲んで過ごす。それが今まで感じたことがない程落ち着くのだ。足が向いてしまうのを和樹自身深く考えるつもりもなかった
大学から入ったテニスサークルも飲み会が主であり、最近は気が進まない。付き合いで参加していたが、そろそろ限界を感じていた。
「悪いな、そのうち顔を出すと伝えてくれ。」
「いや、俺は構わない。俺には関係ないからな。」
そう言えば飯塚もそれほど参加率の多い方ではなかった。どちらかと言えばサークルの女子に無理矢理参加させられる時に来る程度だった。
「ま、お互いだな。」
和樹のその言葉と同時に部屋は静寂に包まれて教授の相変わらずの講義が始まった。それでも和樹の物思いは続いた。
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