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第8話 後悔
トボトボと家までへの道を歩きながら雫は自分の不甲斐なさを悔いていた。あんなに楽しみにしていた時間を全て台無しにしてしまった気分だった。
(なんであのままぐっすり眠ってしまうかな~ダメダメじゃん僕・・・。)
少し横になるつもりでいた雫が次に目覚めたのは、知らないベットの上、知らない部屋だった。自分は確かソファーにいたはずなのにと混乱した後、和樹によって運ばれた事にようやく気が付いた。時計を見れば9時に近い。慌ててリビングに向かえば携帯で電話をしている和樹がいた。
険しい顔で話をしている和樹には近づけず、雫はリビングの入り口で立ち止まる。
「分かった、しばらくしたらそっちに行く。瀬川、それまでの時間繋ぎはよろしく頼む。」
そう言って携帯を切り、雫に気が付いた和樹の顔には険しい表情は消えいつもの笑顔に戻っていた。自然と息を詰めていた雫も呼吸が楽になった。
「おはよう。ゆっくり眠れたみたいで良かった」
「おはようございます。あのごめんなさいベット占領したみたいで。それにこんな時間まで。あっ、僕顔を洗ってきます」
話しているうちに段々と恥ずかしくなった雫は慌てて洗面所に向かった。それからリビングに戻れば、すでにテーブルには朝食が用意されていた。
「本当にごめんなさい。」
「気にしないで、さぁ、朝食にしよう。」
和樹に促された雫は慌てて席に着き、手を合わせて一緒に食事を始めたがなんだか気まずくて押し黙ったままになってしまう。
「ごめん、俺こそ謝らないといけないんだ。この後予定が入ってしまった。」
「えっ、そうなんですか?」
慌てて顔を上げれば申し訳なさそうな顔をした和樹の視線とぶつかった。
「そう、だからそんな顔しないで。」
「和樹さん・・・。」
「ん?」
「分かりました。食事をしたら帰りますね。」
とても残念な思いを隠しながら無理矢理笑顔を作ると食事を再開させた。それからの食事の味ははっきり思い出せなかった。
「雫?」
俯いて歩いていた雫は新一の言葉で立ち止まった。ここから歩いて5分の所に住む新一と彼女の香がそこにいた。自分の世界にいた雫は一気に現実に戻ってくる。雫の頬は濡れていた。
「新一、香ちゃん・・・。」
「お前なんて顔してんだ、今日は友長さんの所じゃなかったのか?」
「うん。そうだったんだけど・・・。」
「ちょっと、雫くん何泣いてるの?」
「なんかあったのか?」
新一たちの言葉で、押さえていた感情がどっと膨らむ。消えない後悔、楽しみにしていた和樹との時間が無くなったことへの失望。いろんな思いが雫の中で渦巻いていた。
ポロポロとこぼれ落ちる涙。
「僕のせいで楽しい時間なくなっちゃった・・・。」
「友長さんを怒らせたのか?」
「違うけど。でも…。」
「泣くな、お前が泣いたらどうしたら良いのか分からなくなる。香もだけど俺は泣き顔が嫌いなんだ。」
「新ちゃん、それはひどいよ。雫くんの話ゆっくり聞いてあげましょうよ。」
「その必要は無いよ香。どうせ雫が寝ちまったって話のはずだらから。」
「「!!」」
驚きで雫の涙も止まる。
幼い頃からの雫を知っている新一にとって何をしたか位はお見通しだった。でも、それより驚きはその事で雫が泣いていることの方が新一には重要だったが、それは言葉にしないことにした。初めて雫が自分の感情と向き合い始めた気がしていたからだ。
「なんで、分かるの?」
「何年の付き合いだと思ってる?お前の行動くらい分からない訳ないだろ。それで愛想尽かされたかもって思ってるのか?それって友長さんに凄く失礼だって分かってるか?」
「失礼?」
「そうだ。信じてないって事だからな。友長さんを信頼してるなら泣いてないで次に会ったときに正直に話して謝れば良いそれだけだ。おまえは人の家に居着くといつも寝てしまうんだよ気づいていなかったのか?」
「えっ、あ、うそ…。僕。そっかそうだね。ほんとに新一の言う通りだ。」
その言葉で雫の感情も浮上していた。よく考えたら新一の家でもよく寝ていたのを思い出したのだ。それなのに何故こんなにも悲しくなったのか?一緒に過ごせなくてこんなに苦しいのか?考えても今は思い浮かばない雫だった。
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