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第9話 救世主
新一と香に会い気持ちに踏ん切りの着いた雫は自宅に戻って部屋の片付けをしていた。
(和樹さんどうしてるかなぁ~。忙しそうだったなぁ~。また泊まりに行けるかな?)
次に和樹に会う時に眠った事を謝ろう。自分は安心すると直ぐに眠ってしまうことを話そうと決めると心が軽くなった雫だった。それをあんなに後悔したのはきっと話しておかなかったからだと結論づけていた。
そして、急に用事の出来た和樹を責める気持ちもまったく無かった。あんなに何でも出来る人なら急用が出来ても仕方がないと思えていた。
(さて、買い物に出かけるか)
必要な日用品の買い物をするために出かける用意を始めた。思った以上に片付けに時間がかかってしまっていた。
(確か、トイレットペーパーがもうすぐ無くなるから買いに行かなきゃ)
頭の中で買い物の算段を付けた雫はまずは一番遠い駅前のドラックストアにトイレットペーパーを最初に買いに出かけることにした。
無事にトイレットペーパーを購入した雫は次のスーパーに向けて歩いていた。時刻は夕刻の5時、雫は街の中でぽつりと人気のない、公園の前を通り過ぎようとしていた。
「お嬢ちゃん、綺麗な顔してるね~。」
柱の陰からいきなり男の人が飛び出してきた。中年の薄汚れたスーツをきた50代くらいの人物。
「僕、女じゃ、ありません。」
「へぇ~、男か~。俺は綺麗ならどちらでも構わないんだ。」
「やめてください。近寄らないで。」
一歩一歩近づく不審者。雫は逃げ場を求めて公園に飛び込んでしまっていた。逃げ込んだ公園をそんなに行かずに痴漢は雫の腕をつかみ草むらに押し倒してきた。
雫の脳裏に中学時代に痴漢に襲われ、新一の機転で助かった時を思い出していた。10分差で下校した雫を走って追いかけて来てくれ、助けに入り痴漢を撃退してくれたのだ。でも今日はそれは望めない。自分の力でどうにはしなければと、持っていたトイレットペーパーを痴漢に思いっきりぶつけてみた。
「痛い。抵抗するな。」
「やめて!!」
「雫!!!!この変態。」
痴漢を放り投げ、殴り倒す和樹がそこにいた。雫は信じられない思いだった。今朝別れたばかりの和樹がそこにいるなんて考えてもいなかった。公園の外灯に逆光の背中は大きくてとても安心できた。
和樹は遠目から雫が公園に逃げ、それを追いかける人物を見ていたのだ。
「さっさとどこかへ行け!まだ殴られたいか!」
痴漢はその恫喝に一目散に逃げ出した。和樹はそれをしっかりと見つめ姿が見えなくなってから雫の方に振り返り、雫を抱き起こしてくれ、ぎゅっと抱きしめてくれた。雫も和樹の肩口に頭を当てて、背に腕を回しカーディガンにしがみついた。
「雫、どこか怪我はない?」
「はい。大丈夫です。」
そう言って顔を上げた雫の言葉とは裏腹に、頬には涙が流れ身体は震えていた。助からないと諦めかけた時の恐怖が蘇っていた。
「すまない、もっと早く助けに入れたら良かった…」
「いいえ、とても助かりました。ありがとうこざいます。」
雫は震えながら再び和樹の肩口に顔を寄せて落ち着くまで涙を流し続けた。それを和樹はカーディガンが濡れるのも嫌がらず優しく抱きしめてくれていた。耳元で『大丈夫、大丈夫』と言いながら。そして雫はその腕の心地よさを感じていた。
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