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第11話 涙

 雫は泣くだけ泣いて腫れてしまった瞼を冷やすため濡れたタオルを目元に置いてベットに横になっていた。それでもタオルは涙を吸い取る。涙が止まることは無かった。  こんなに泣いたのは幼い頃以来かもしれない。父親が事故で亡くなった時も綾子を支える為、思い切り泣くことは出来なかった。新一は気遣ってくれたが雫は頑なだった。  綾子は今日は夜勤の為に留守だったので、思い切り泣くことが出来る。雫は気が済むまで泣くつもりでいた。泣きながら和樹に出逢ってからの事を思い返していた。 (初めて握手した和樹の手は大きくて暖かかったなぁ~。あの手はもう届かないのか……。) 「うっく。う、う、う」  タオルはもう意味を成さなくなっていた。床に落ちたまま忘れられている。新たな涙は流れ続け、両手で顔を覆い手の隙間から涙はこぼれ落ちた。 「和樹さん……」 『雫、もう着くよ』  和樹の声が頭の中に響く。  もう一度甘いバリトンボイスで名前を呼ばれたい。帰りの電車の中で、度々頭を乗せて眠ったがっしりした頼りがいのある肩にもたれたい。雫がよく眠る事を話した時に笑って理解してくれた笑顔が見たい。全てが雫を魅了して止まない。自分は失恋をしてその思いを捨てられるのか?  明日はお店に来ると約束してくれいた。平気な顔をして会えるだろうか?こんなに好きなのに男性を好きになるだけでも相手からしたら気持ちが悪いだろう。そんな自分がどこまで平気な自分を演じられる? (無理だ。会えない。)  初めて恋をして、失恋を知った雫の心はどこまでも弱かった。

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