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第18話 デートに
アルバイトが休みで翌日が祝日のためお店が休みのその日、雫は和樹の家に泊まる約束をしていた。講義が終わり大学のカフェテリアで和樹を待つ雫は1人ではなかった。
「なんで、新一がここにいるんだよ。香ちゃんまで」
「良いじゃないか。俺ら保護者だし。な、香」
「そう、そう、雫くん深く考えないで~」
勝手に居座って頷き合っている2人に雫の頬が膨らんだ。
「なんだよ、保護者っていつ、なったんだよ。もう~新一、香ちゃん!」
「違うのかよ?」
口で新一に勝てた事のないはその言葉にぐっと詰まった。よくよく考えればいつだって新一には助けてもらっている。それを保護者だというならそうなのかもと雫は考えてしまった。その時、固まった雫を助けるかのように和樹が来てくれた。
「雫、待たせて悪かった。ありがとう、新一くんたちまで」
「いえ、ずっとお会いしたかったから。雫のことありがとうございました。こいつのこんな幸せな顔見られるなんて、全て友長さんのおかげです」
「本当に、こんな嬉しそうな雫くん初めて見ます。」
新一の言葉は考えてもいない事だった。まさかそんな事を言ってもらえるなんて嬉しくてたまらなかった。そして3人の優しい眼差しが雫に向けられる。それはあまりにも温かくて雫の胸は熱くなった。こんな親友たちを持てた事を心から嬉しく思った。
「雫、行こうか?」
「はい、またね新一、香ちゃん」
「おう、またな雫。友長さんも雫のことよろしくお願いします」
「またね。雫くん」
2人に見送られて和樹と車の所まで向かった。安心しきった雫の顔がそこにあった。その顔を見た和樹が雫にキスしたい衝動を抑えているのを雫は知らなかった。
車までの道のり無言の和樹に雫はだんだん不安になってくる。
「和樹さん?」
「ん?あぁ、ごめん。そんな不安そうな顔をしないで。良い友達を持っているんだな雫は」
「はい、自分でもそう思います」
見上げればぶつかる視線に嬉しくなった。11月も中頃を過ぎて本格的な冬を迎えようとしていた。冷たい風が吹き抜けて行くけれど雫の心は温かかった。8月の終わりに和樹と出逢いこんな風な関係になって大学内を歩いているなんて、あの日の男女の喧嘩に不謹慎だが感謝したい雫だった。それが無ければこんな関係にはなれていなかった。
雫は和樹との初めてのデートに映画を楽しんだ。そしてショッピングモールの雑貨を扱うお店に来たその時、雫の目に1つのマグカップが目に入った。その黄色いどっしりしたそのカップは、初めて会った時に光を背負ってカフェに入ってきた和樹を雫に思い出させてくれた。
「雫?どうかした?」
「和樹さん、このマグカップどう思いますか?」
「これはいいな。雫はこれが気に入ったのか?」
「はい、これ和樹さんのイメージなんです」
「これが?なら、こっちの色違いの水色は雫みたいだな。丁度いい、これを色違いで買って俺の家で使おうか」
「はい!」
和樹の言葉に雫の頬に満面の笑みが浮かんだ。2人のお揃いのマグカップ。お互いをイメージした物を使えるのが嬉しかった。
ショッピングモールからの帰りの車の中で、左手は雫の手を握り、器用に右腕だけで運転する和樹の姿に雫はうっとりと見つめてしてしまう。
「今日は一緒に食事作ろうか?」
「はい、何が食べたいですか?」
「雫が食べたい」
「え、あ、あのっ!」
「ごめん。今のはなし。今日はすき焼きの気分だ。雫は?」
きっと今の雫は真っ赤だ。はっきりと雫の事がほしいと言ってくれたそれが嬉しかった。あの日和樹と身体を合わせてから10日が過ぎでいた。お互いに時間やタイミングが合わずにキス以上をすることが出来ないでいた。雫ははしたないと思いながらあの夜に感じた熱い時間の事を思い出す事が何度かあった。「あの、僕も和樹さんが食べたいです。」精一杯の思いで小さな声で呟いた雫の言葉を和樹が聞き逃すはずが無かった。雫の勇気は握る手が応えてくれた。
夕飯はすき焼になった。お肉はもちろん奮発して高い物を選んだ。自分の大胆な発言に頬を染めながらも、和樹とする買い物は雫にとって楽しい時間だった。
和樹の部屋のキッチンは広く、2人で台所に並んででもなんの支障もなかった。
「雫、すき焼きに玉ねぎ入れてもいいか?」
「玉ねぎですか?入れた事ないです」
「美味しいから食べてみて」
「はい、楽しみにしてます」
手際よく下準備を進めていく和樹を手伝い玉ねぎの千切りを雫は用意した。玉ねぎ入りのすき焼きは思った以上に美味しかった。次からすき焼きをする時には入れても良いなと思うほどだった。買い物と和樹の気負わない雰囲気にいつしか緊張も解れ雫はいつもよりも食が進んだ気がした。
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