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第20話 挨拶

 講義に出席していた雫の頭の中には情交の思い出が浮かび1人赤面して俯く。 (初めての体勢って凄かった。もっと凄いのがあるのかな?って何考えてんだろ僕。恥ずかし~今は授業中だ)  雫はノートを取る体勢のまま、教授の言葉はその頭を素通りしていった。講義が終わった瞬間、雫は新一にノートで頭を叩かれていた。 「痛いよ、新一」 「雫、お前友長さんの事思い出すの止めろ。その顔はやばすぎる」 「え、新一、なに?」 「お前講義の間友長さんを思い出していただろ、その顔だ!」  講義が終わった後のあまりの新一の勢いに雫は頷く事しか出来なかった。 (そんなにひどい顔してるのかな?気を付けよう)  そう心に決めた雫だった。新一のせっかくの忠告は鈍い雫には通じなかった。 それから雫はアルバイトの日にちを週5日から週4日に変更してより和樹と過ごせる時間を増やしていった。  いつものように和樹の部屋で過ごした雫はアパートの下に見慣れた姿を見つけた。   「あ、母さん」 「お母さん?なら挨拶しないとだな」  アパートの駐車場に車を停めた和樹は初めて雫の母の綾子と向き合った。その時、雫には緊張が走った。いつも雫の想像を超えてくる綾子の反応がどういう物になるのか想像もつかなかったからだ。 「あら、雫。送ってもらったの?」 「うん。えっと、いつもお世話になってる友長先輩」 「初めまして、友長和樹です。いつも雫くんを連れ回してすみません」  爽やかな和樹の挨拶と謝罪に綾子の頬に優しい笑顔が浮かんでいた。その笑顔は和樹を気に入った事を示していた。それを見た雫は胸を撫で下ろした。   「いい男ねあなた~、雫がいつもお世話になっています。母の綾子です。郵便を撮りに来て正解だったわ。良かったらあがって行かない?和樹くん」   胸を撫で下ろしたはずがなんだか雲行きが怪しくなって来たのを雫は感じていた。綾子の興味津々のスイッチが入っているようだった。 「申し訳ありません。この後予定があってお邪魔できないんです」 「あら~、残念ね。なら、連絡先の交換をしましょ?」 「はい、よろしくお願いします」  自分の母親と恋人が連絡先の交換をしている姿に面映ゆい思いをした。  和樹と別れた雫と綾子は部屋に入り、揃って上着を脱ぐとこたつに入り暖をとった。 「和樹くんっていい男ね~。付き合っている人はいるのかしら?いないなら立候補したいくらいだわ」 「母さん、ほ、本気?」 「雫はどう思う?」 「僕にはなに……」  綾子と和樹が腕を組んで歩いている姿を考えるだけで雫の瞳には涙が溢れ、涙を我慢して下唇を噛んだ。 「そんな顔、子どもの頃以来ね~。悔しくて涙を我慢するなんて。和樹くんが雫らしさを取り戻してくれたのね」 「母さんごめん。僕、和樹さんと付き合ってる。親不孝でごめんなさい」  とうとう我慢しきれずに涙は決壊して頬をポロポロとこぼれ落ちた。こんな形で綾子に告白するとは思ってもいなかった雫はこたつに頭を付けて謝罪した。 「馬鹿ね~。何を泣いてるのよ。幸せなんでしょ?それなら胸を張りなさい」 「母さん……」 「それに和樹くんには感謝ね。もう一度雫の泣き顔を見させてくれたんだから。ほら、いつまで泣いてるのよ」 「うんうん。ありがとう母さん」  やっぱり雫の想像を超えた反応を綾子はみせた。自分の母親の度量の深さに頭が下がる思いと、綾子の子どもに産まれた事を心から感謝した    その夜、雫から和樹との関係を綾子に告白したことを告げられた和樹は、日にちを改めて手土産を持って挨拶に来てくれた。  もちろん、綾子から熱烈に歓迎されたのは言うまでもなかった。

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