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第21話 前兆

 和樹と身体を合わせるようになってから雫の艶はどんどん増していった。今までにもまして人を魅了して止まないようになっているのを雫だけが分かっていなかった。もう、だて眼鏡だけでは押さえるのは難しいのかもしれなかった。  ある日和樹のマンションで1人で留守番をしていた雫は、部屋に鳴ったインターフォンの前で画面に映る男性の姿に返事をするべきか困っていた。 (出た方が良いのかな?どうしよう、まいっな~。えーい出ちゃえ!) 「はい、どちら様ですか?」 『瀬川と申します、月嶋様ですね?和樹さんはいらっしゃいますか?』 「あのどうして僕の名前を?それから和樹さんは今は出かけています」  鮮明に映る端整な顔をした男性の声は、良く通る低い声だった。 『和樹さんよりお聞きしております。そうですか。分かりました出直します。和樹さんには瀬川が来たとお伝え下さい。よろしくお願いします』 「分かりました。伝えておきます」 『では、失礼いたします』 「はい」  とても印象に残る姿と声だった。  入れ違いのように帰宅した和樹は出迎えた雫の名前を甘い声で呼ぶ。それを合図のように口付けが1つ落とされる。2人だけになると繰り返される最近の習慣の1つだった。 2人でソファーに落ち着き和樹に先程の話をすると珍しく和樹の眉間に皺が寄った。 「他に何か言っていたか?」 「いいえ、……あの、出たら駄目でしたか?」 「出てくれて大丈夫だよ。そうか、わかった。ありがとう」  しばらくの間、和樹の眉間から皺が消える事はなかった。その姿にどこか心がザワつく雫だった。それでも、しばらくして笑顔が戻った和樹の姿にそんな一時の気持ちもいつしか忘れ、雫は和樹との時間を楽しんでいた。   「雫、家まで送るよ」 「あっ、ほんとだ。こんな時間ですね。よろしくお願いします」  その日雫は、和樹が笑顔の裏で考え込んでいることを感じることは出来なかった。

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